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2012年10月31日 (水)

プラカード間違えた (銀河英雄伝説 二次創作ショートショート)

プラカード間違えた

 宇宙暦797年、帝国暦488年10月。銀河帝国でも自由惑星同盟においても、その意味合いには大いに違いがあったものの、各地での内乱が完全に終息した。ラインハルト・フォン・ローエングラムは爵位を公爵に進め、更に帝国宰相の地位についた。一方、ヤン・ウェンリーは大将のままだった。彼がもらったのは、自由戦士一等勲章、共和国栄誉章、ハイネセン記念特別勲功大章などの、ごたいそうな名のついた、いくつかの勲章であった。

 勲章授与式を得意の「2秒スピーチ」で終わらせ、イゼルローン要塞へ帰還したのは、10月の末のことであった。ヤン自身が昇進していないこともあり、イゼルローンの幕僚も、勲章や感謝状に埋もれはしたが、階位は据え置かれていた。ワルター・フォン・シェーンコップのみが、惑星シャンプール解放戦における功績を認められ、少将に昇進している。その他、要塞内で取り立てて変化があったとすれば、帝国から亡命してきたウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツが中将待遇で客員提督(ゲスト・アドミラル)としてイゼルローン要塞司令官顧問の地位を得たことくらいである。ともあれ当面の国家の危機を救った不敗の名将は、彼の被保護者であるユリアン・ミンツ少年とともに、イゼルローン居住地区郊外にある公園のベンチで、束の間の休息を堪能していた。
「提督、ご存知ですか?今、アッテンボロー提督たちが、パーティーを企画しているらしいですよ」
亜麻色の髪と人目を引く整った顔を持つヤンの一番弟子は、こと行事関係に疎い保護者に、イゼルローンの幕僚たちの、およそささやかとは言えない企画について言及した。
「パーティー?こんな時期に何のパーティーだろう。ああ、メルカッツ提督の歓迎会かい?」
見当はずれな推測をする保護者に、屋台で購入したキッシュ・パイとミルクティーを手渡しながら、首を振った。
「違いますよ。提督はこの頃、街のあちこちにカボチャの人形が飾られているのにお気づきではありませんか?」
ユリアンは直接的な解答を提示せずに、あえて疑問形で彼の保護者の様子を見た。
「ああ、何だ、ハロウィン・パーティーか」
「ご存知でしたか」
「当然だろう。私が歴史家志望だってことは、ユリアンも知っているはずじゃないか。ハロウィンは、まだ人類が地球上に居住していたころの……」
ヤンお得意の歴史高説が始まろうとした様子を見て、ユリアンは自分もキッシュ・パイにかじりついた。
「西ヨーロッパのケルト人を起源とする、死者の祭りを兼ねた収穫祭だ。とかくキリスト教由来のものと誤解されがちだが、ペイガニズム、すなわち自然崇拝を由来とする行事と言われている。ケルト人の1年の終わりは10月31日で、その日には、死者たちがかつての家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てきたりすると言われ、これらから身を守るために、生者たちも仮面をかぶったり変装したりして、魔よけの焚き火を焚いた。その名残が、あのカボチャの飾り物、ジャック・オー・ランタンなのさ」
少し向きになりすぎたか。ヤンは少年がクスクス笑っているのを見て、収まりの悪い髪の毛を掻いた。
「そうです、そのハロウィンです、提督」
少年は笑顔を絶やさない。ヤンはすぐに、しまった、という顔になった。
「ご想像に容易いと思いますが、皆さん、仮装をなさるようですよ。そして誰もが、提督はどんな仮装をするのだろうと思っていらっしゃる」
やれやれと、ヤン・ウェンリーは再度頭を掻いた。少年が手渡してくれたキッシュ・パイは、すでに胃の中におさまっている。
「お前なら私の回答など、それこそ想像に容易いのじゃないかい」
ユリアンには分かっていた。仮装などという準備の必要な面倒なことを、ヤン・ウェンリーが自分から進んでするはずがない。そしてそれは、イゼルローンの幕僚たちも心得ていることだった。だからこそ、ユリアンの手腕が問われているのだ。
「はい、提督。でも……」
「でも、何だい?」
「もう用意してしまいました、提督のご衣裳。それに、パーティーでの飲酒は家計に含まれませんから」
ヤンはユリアンの最後の言葉に、あっさりと陥落することとなったのである。

パーティーの準備が終わるころまで、二人は公園のベンチを占領していた。日が傾き始め、空気が冷たくなってきた頃、ヤンは以前にハイネセンでも目撃した団体を目にした。人数はおよそ100人ほどであろう。黒い長衣を身にまとった老若男女さまざまな集団である。「地球はわが故郷、地球をわが手に」というタスキを肩から掛けている者が多い。
「ユリアン、あれは……」
ヤンはあえて、その名を口にしなかった。口にしてもあまり愉快になれそうもなかったからである。代わりに彼の被保護者が答えた。
「地球教徒ですね。……あれ?」
年齢の割には物事に動じない少年が、少し驚いたように語調を変えた。ヤンも再度振り返り、その団体を観察した。宗教団体にしろ市民のデモにしろ、人間が集団で行進する時は、何かしらのプラカードや横断幕を掲げていることが多い。地球教徒たちもそのセオリーに反していなかった。
しかし、でかでかと掲げられたそのプラカードには、「Trick or Treat !」と書かれていた。
「提督、あれは本当に地球教徒でしょうか」
ユリアンが困惑したように保護者の意見を求めた。ヤンはちょっと怪訝そうにその団体を見直してから、ベレー帽をかぶりなおして言った。
「なぁに、あの連中だって、毎日毎日、総大主教猊下(げいか)を拝んでばかりとは限らないさ。たまには祭りだってしたい日もあるだろうよ」
「そうですね」
二人はそう言って立ち上がり、彼らの仲間たちの待つ、イゼルローン要塞司令部へと向かったのである。

(Ende)

ハッピー・ハロウィン♪pixiv同時掲載です。ぶっちゃけ、向こうの方が読みやすいです。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1628079

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