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2012年11月22日 (木)

解毒剤 (銀河英雄伝説 二次創作)

もそもそと、短編二次創作でございます。以前の作品「戯画(カリカチュア)」を先に読んだ方が、少し面白くなると思います。読まなくても分かるように書いたつもりですが。pixiv同時掲載です。ぶっちゃけそっちの方が読みやすいです。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1707489

解毒剤

 宇宙暦801年、新帝国暦3年11月。軍務省官房長官アントン・フェルナーは、その肩書きに「元」という言葉を添えた。皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムの崩御、そして、軍務尚書の死。多忙な事後処理を終えて、彼は軍籍を退いた。

「この軍務省に、俺の居場所はないだろう」
冗談めかして言って、僚友であるシュルツを困惑させた。シュルツも含め、部下や同僚に引き留められながらも、彼の意思は変わらなかった。自分がいなくなっても困らない処置と指示を淡々と済ませて、彼は軍務省ビルを後にした。
夏は比較的過ごしやすい惑星フェザーンであるが、冬の訪れは早かった。最後に着るであろう軍用コートを、首元までしっかりと締め付けて、故人の習慣をしのばせる律動的な足取りで、フェルナーは退役軍人としての夜をスタートさせる店へ向かった。

 小さな構えで、扉に宇宙海賊の戯画が描かれている看板のないその店は、以前たった一度だけ、彼の上官だった男と酒を酌み交わした、あの店に似ていた。フェザーン遷都にともなって、行きつけのバーを失くしたフェルナーが、仕事帰りに見つけた人気の少ない店である。情勢が落ち着いたら、一度上官を連れて来ようと、扉に描かれた戯画を眺めて、作戦を練ったものだった。扉を開けると「いらっしゃいませ」という型どおりの文句が投げかけられた。フェルナーはカウンターの隅に席を取ると、コートを脱いで椅子の背もたれに掛けた。
「ジントニック、それと何か適当なつまみ」
ここは、あの店での「あの人」の席だった。
おかしなものだ。
生きているうちは、部下たちの胃痛の元凶となり、冷徹だとか卑怯だとか、諸提督たちからの反感を一身に集めていた存在だったのに、いなくなってみれば、軍務省に大きな穴が開き、残った元帥たち……いわゆる「獅子の泉(ルーヴェンブルン)の七元帥」たちは、故人の予想もしない激務に悲鳴を上げていた。
すっと手元に差し出されたグラスを、黙って受け取って、フェルナーはそのグラスの中を見つめた。

 軍務省に大きな穴が開いたことは、それまでにも一度あった。フェザーンで起こった爆弾テロで、彼の上官パウル・フォン・オーベルシュタインが負傷した時である。幸いにも軽傷で、療養と検査のための数日間の入院で済んだのだが、それでも組織の長たる人間の不在で、省内が浮足立ったのを、フェルナーは今でも覚えている。その時にも痛感したのだ。
「あの人のいない軍務省なんて、俺のいる意味がないな」
フェルナーは立場上、そして「神経がワイヤーロープでできている」と評されるその性格上、組織にとって「劇薬」だったオーベルシュタインのそばで、強烈な性質を持つ上官の解毒剤としての役割を負っていた。それは特に自らに課したわけでもなく、むろん命令されたのでもなかったが、自然のうちに周知の事実となっていた。
「だが、卿ほど優秀な人材は、そうそういないんだぞ。少しは残される人間の身にもなってくれ」
辞表が受理された後で、一時は「官房長臨時代理」を務めたこともあるグスマンが、苦々しげに言った。フェルナーは率直に別れを惜しんでくれる僚友に、わずかばかりの後ろめたさを覚えながら、それでも自分の心情などおくびにも出さずに応えた。
「戦争は終わった。軍備は縮小され、軍務省の仕事も楽になるさ。一人の異才で成り立っていた組織が、多数の凡人で成り立つ組織になる。そうなるよう、あの人が最後の禍根を絶ってくれたのだからな」
地球教徒による皇帝暗殺未遂。地球教徒が暗殺のターゲットだと思い込んで爆破した、ヴェルゼーデ仮皇宮の一室は、軍務尚書オーベルシュタイン元帥が、暗い室内に明かりを灯し、手ぐすねを引いて待っていた部屋だった。と囁くものが、省内には多い。皇帝(カイザー)ラインハルトを囮にして、「皇帝陛下の病状は回復に向かっており、快癒の後には地球そのものを滅ぼす」という偽の情報を流して、潜んでいた生き残りの地球教徒どもを引きずりだした。それは後に、居合わせた諸提督からの証言により事実とされている。しかし、地球教徒たちがなぜ、あの部屋を皇帝の病室と思い込んで爆破したのか。何より、なぜその部屋に軍務尚書がいたのか、これは明記できるだけの証言が得られなかった。亡き上官を慕う部下たちは、「計算の上の殉死」という説を支持しているようだった。
フェルナーには分からなかった。暗殺者たちをおびき寄せたまでは良い。瀕死の皇帝でさえ、その道具にするやり方は、いかにも彼らしい。だが自分が殺されてしまって、暗殺者たちの処分をどうするつもりだったのか。結果的に彼らはその場で全員が射殺されているが、そのような不確定要素を残しながら、なお、自分の生命を賭したのだろうか。むろん、ヴェルゼーデ仮皇宮の内外では、地球教徒たちを待ちうけるように、警備体制も一層厳重になっていた。オーベルシュタイン直属の部下たちは総力を挙げて動いていたし、憲兵たちも当然動員されていた。
「オーベルシュタインは、他人を信用していなかったと同時に、自分のこともそれほど信用していなかったようだ」とは、彼の存命中に囁かれ、その死後に多くの書物で評されている。そんな彼が、あの時は自分の部下たちを信用して、自分の身を暗殺者の手にゆだねたのだろうか。
「案外、計算外だったのかもしれんな」
グスマンが怪訝そうな顔をするのを見て、フェルナーは軽く笑った。
「そんな顔をするなよ。そうだ、ひとつ面白い話をしてやろう」
最後の「解毒」をしてやろう。シュルツとグスマン、「あの人」の側近だけを集めて、フェルナーはことさら秘密めいた口調で言った。
「あの人が皇帝陛下にご結婚を勧められた時にな、俺も聞いてみたんだ。閣下はご結婚なさらないのですか、と」
二人はギョッとしたような顔で、フェルナーを凝視した。
「……それで、何とおっしゃったんです?」
充分に間をおいてから、シュルツが尋ねた。フェルナーは口の端をつり上げるようにして笑って言った。
「絶対にはぐらかされるか、無視されるだろうと思ったんだがな。閣下は……」

「幸せな家庭をつくる自信がない」

「いつもと変わらず、書類から目を上げることもなく、そう言って俺の口を封じたんだ。あの人が『幸せ』だの『家庭』だのを気にするのも意外だったが、挙句に『自信がない』なんて、あの人の口からそんな言葉を聞いたの、俺ぐらいだろう?」

 ジントニックのグラスの中で、最後まで見送りをしてくれたシュルツとグスマンの顔が揺れた。「あの人」のあの言葉の意味は、つまりは死にゆく自分にとって、憂いとなるがごとき存在をつくることはできない、という意味だったのかもしれない。……結局「あの人」は、何を考えて天上(ヴァルハラ)へ旅立ったのだろう。
「感傷か……らしくもない」
フェルナー退役少将は誰にも聞こえぬ声でそう呟くと、グラスを一気に傾けて、爽やかな味を楽しんだ。

(Ende)

編集後記
オーベルシュタイン至上主義で本当にスミマセン。それと、酒を飲むシーンばかりですみません。ネタは色々捻りだしたのですが、形になったのがこれだけでした(合掌)。

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