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2012年12月21日 (金)

ナンバー2不要論~コズミック・モザイクの裏側~(銀河英雄伝説 二次創作)

ナンバー2不要論~コズミック・モザイクの裏側~

 「組織にナンバー2は不要」
それは彼、パウル・フォン・オーベルシュタインの持論であった。もっともこの論は彼独自のものではなく、太古の昔より論じられてきたものである。ナンバー2が有能ならば、トップの権威を損ねることになり、無能ならば組織を腐敗させることになる。かつて、ジークフリード・キルヒアイスが存命中、オーベルシュタインは彼の上官、ラインハルト・フォン・ローエングラムに何度か進言したことがあった。

 しかし、時代とは時に、皮肉的に彼の元へ寄ってくることがある。オーベルシュタインは今、銀河帝国軍軍務尚書の職責をそのままに、新領土(ノイエ・ラント)である惑星ハイネセンに赴任し、銀河系の半分の政治、軍事を掌握する立場にある。しかも、それは皇帝(カイザー)ラインハルトの勅命によってである。彼は直属の実戦部隊とは別に、ナイトハルト・ミュラー上級大将とフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト上級大将の2名の艦隊を率いており、さらに間もなくハイネセンに帰還するアウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将の艦隊も、その麾下におさめることとなる。暫定的とはいえ、この勢力は膨大なものと言えよう。かつて、亡きオスカー・フォン・ロイエンタールが新領土総督に就任した際は、一応、各省の尚書と同格という形を取っていたが、今回の彼は、その尚書職を携えたまま、この地の執政官にもなっているのだ。

 オーベルシュタインは宇宙港から直接、ロイエンタールの使用していた総督府へと身を移した。執務室とその周辺の設備、人員配置などを確認してから、彼はさっそく軍務省官房長官アントン・フェルナー准将を呼び出した。かねてより計画していた、旧同盟の要人たちの拘禁、世に言う「オーベルシュタインの草刈」を、翌日にでも実行し得るよう、指示をする必要があったのである。
「……計画は可及的速やかに実行するように。以上だ」
オーベルシュタインはファイルを閉じて部下に手渡すと、あごの下で両手を組んで考え込んだ。彼の不遜な部下は、退室を命じられたわけではなかったので、上官の机の上に置かれている、早くも決済済みの書類を見つけると、各部署へ回す準備を行った。本来これは秘書官の仕事であるが、シュルツ中佐は軍務尚書の新領土異動に伴っての細々とした事務処理に追われていたため、ここまで手が回らないのであろう。軍務尚書自身ものそのあたりを諒解している様子で、シュルツを通さずに彼を呼んだのも、そのためと思われた。……というようなことを考えながら、フェルナーはその軍務尚書の表情を見やった。オーベルシュタインは今更声高にフェルナーが喧伝するまでもなく、切れ者である。少なくとも手を動かしながら考え事をすることくらい、彼ならばやってのける。その彼が、この多忙な時期に手を止めてまで物を考えるというのが、いささか妙に思えたのだ。フェルナーの想像の翼は、今ぞ羽ばたかんとしたところであったが、その飛翔が許される前に、軍務尚書自身がその思考の一端を吐き捨てた。
「皇帝陛下の勅命では是非もないが、もはや私自身の存在が、新帝国にとっての禍根となりはしないだろうか」
それは事実、「吐き捨てる」という表現にふさわしい、いつにもまして感情のない声だった。
「はっ……?」
フェルナー准将は瞬時のうちに彼の上官の意図するところを理解した。
「それは閣下のお気を回し過ぎというものではありませんか」
部下の当たり障りのない返答に、さして感銘を受けた様子もなく、オーベルシュタインは組んだ手をそっと握った。その手は彼の言葉より、少なくとも彼の感情を表しているように、フェルナーなどからは見て取れた。
「私の立ち位置は常に皇帝の翳(かげ)としてある」
「はぁ、存じております」
「しかし私の権限が著しく肥大している」
日頃から血色の良くないその顔は、相変わらず何の表情もたたえていなかった。
「諸提督がたの忠誠の対象は、皇帝陛下お一人です。閣下の意図された通り、代替の利く存在ではありません。合わせて、閣下に反逆や国政を壟断(ろうだん)する意思がなければ、問題ないのではないでしょうか。閣下を利用して新帝国をほしいままにしようと企む輩がいたとしても、黙ってその傀儡(かいらい)になり下がることなど、ありはしないでしょう。閣下も、そして皇帝も」
オーベルシュタインはあごの下の手をデスクに戻すと、物分かりの良い部下の言葉にうなずいた。
「その通りだ。だが、手を打っておくに、しくはない」
フェルナーは彼の上官の冷厳さに、改めてぞっとした。オーベルシュタインは自分自身についても、帝国に害ありとみなせば、粛清リストの一部にすることをためらわないのではないか、と思えたからである。
「閣下の職権は勅命によってのみ制限されるものです。何らかの形で皇帝ラインハルトを動かすことになる、と思われますが……」
「無論だ。私自身では収拾しえぬ、それでいて、さして深刻ではない問題を、皇帝におさめて頂く形を取るのが妥当であろう」
軍務尚書の義眼から、形容しがたい光が発せられるのを、フェルナーは確認した。
「閣下はすでに、その火種をお持ちですね」
フェルナーのその言葉は、ほぼ確認のみだった。
「うむ。自慢げに家訓を叫んでいた『彼』を利用させてもらおう」
「この草刈、必ず異を唱えてくる、とお考えですね」
「そうだ。そうなるよう、多少の情報操作も加えてもらおうか」
「……御意。ですが、非がどちらにあろうと、閣下が更迭されることになると小官には思えますが、それでもよろしいのですか」
「構わぬ。そのための仕儀だ」
ビッテンフェルト提督も、とんだ災難だなと、フェルナーは内心で思いもしたが、あの猪武者に喧嘩を売る立場の軍務尚書の方が、案外辟易させられるのかもしれない。それに……
「あの提督を激発させるのは良いとしても、激発した『彼』を制御するのはいささか困難かと思われます。閣下の身に万が一ということも……」
オーベルシュタインは初めて表情を動かした。それも、驚きというベクトルに向かっていた。
「卿が案じることでもあるまい。卿はもう少し野心家だと思っていたが」
「……部下が上官の身を案じて悪いことはないでしょう。補足させて頂くと、小官はこれでも自分の器量を心得ているつもりです。閣下の身に不慮の事故が起こればいいなどと思ってはおりませんし、閣下に取って代わろうなどとも考えておりません。……野心がない、とは申しませんが」
言いにくいことをスパッと言ってのける部下を見やり、オーベルシュタインはほんの一瞬、口角をつり上げた。
「では事態を分析し、対策を講じることとする。『彼』単身での面会には応じぬ。ミュラー、ワーレンなどと共に訪れた時に会うとしよう。その際、『彼』はこう言うだろう。イゼルローンなど、俺の艦隊だけで陥としてみせる、と。その大言壮語につけこめば、まず間違いなく『彼』は腕力に訴えることであろう。……そうだな、私は床に突き倒される程度の覚悟はしておこう。だが『彼』の拳が私に届く前に、ミュラー、ワーレン両提督によって制止される。そんな筋書きで、卿は納得するかな」
フェルナーはいつになく饒舌な上官に、つられるように低く笑った。
「閣下、それはもはや、楽しんでいらっしゃるでしょう」
オーベルシュタインは部下を一瞥すると、
「私は真剣だ。現状を憂慮し、打開策を考えているに過ぎない」
再び、能面のような顔に戻ってしまった上官を見て、フェルナーは思案した。
「承知しました。では小官も部下として最善の策を講じたいと存じます。小官の執務机を、ここへ運ばせますね」
オーベルシュタインは数秒沈黙した後、溜め息まじりに言った。
「卿こそ、特等席で見物する気であろう」
「まさか、そのようなこと。3割程度にしか考えておりません。閣下の安全を考慮した結果です」

ビッテンフェルト上級大将の激発事件が、こうして作為的に上演されたという記録は、無論どこにも残されていない。

(Ende)

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