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2013年1月20日 (日)

遺されるもの~1.フェルナーの追求~ (銀河英雄伝説 二次創作)

はじめに

こちらの作品はpixiv同時掲載です。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1908792
短編ですが、全5章から成っております。

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遺されるもの

1.フェルナーの追及

「皇帝陛下にご結婚を勧められたとか」

「そうだ」

「閣下は、ご結婚なさらないのですか」

ローエングラム王朝初代軍務尚書の部下、アントン・フェルナー准将は、臆する様子もなく上官に問いかけた。軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタインは、名だたるその義眼の焦点を手元の書類に合わせたまま、言葉のみを部下に返した。
「幸せな家庭をつくる自信がない」
オーベルシュタインはそう言い終わる前に、好奇心旺盛な部下からさらなる回答を求められることを予測した。しかし偽りを述べる気にもならなかった。
「ほぉ、『気がない』のではなく、『自信がない』のですか。閣下も、家族の幸せを考えたりなさるんですね」
時計の針は終業の時刻をとっくに通り越していた。職務に対して潔癖な上官に、一応は気を遣って話題を選んでいるフェルナーである。もっとも、棘のある言葉をオブラートに包むなどという点については、やはり上官に倣って、あまり考えないようにしている。
「貴官らが私をどう見ているのかについては関心がないが、私も人間の端くれのつもりだ」
薄い唇で、氷のような温度の言葉を、そっと言い置く。フェルナーは負けじと、上官を追いたてるように問い直した。
「結婚を考えたことは、おありでしょう?」
これはフェルナーの直感であった。「自信がない」という言葉が、どこか「不幸な恋」を連想させたのであるが、この上官に限って、そのような想い入れを引きずっているようにも思えない。
「……余計な詮索をする時間があったら、1分でも早く帰宅して、卿の恋人を喜ばせるがよかろう」
オーベルシュタインは部下の論法を逆手に取ったが、フェルナーは自分の直感ランプが真っ赤に点灯しているのを自覚し、さらに言葉を重ねた。
「おりもしない恋人を喜ばせることはできませんよ。閣下、大事な思い出は自分の中だけにとどめていると、色あせて風化するだけです。時には回想し、誰かに語ることで、あせた色を取り戻すこともあります」
軍務尚書は初めて書類から目を上げると、半白の髪を右手で軽くかき上げて、不遜な部下を睨んだ。日頃なら、引き際を心得ている部下にとって、言葉よりも有効な手段であった。しかしこの時、彼の部下は引き下がる様子を見せなかった。3分以上沈黙した後で、オーベルシュタインは諦めたように口を開いた。
「大切な人間というものは、確かにいた」
我が家の執事だ、というような落ちでないことを祈って、フェルナーは相槌を打った。
「准尉として任官したばかりの冬だった。私が、オーベルシュタイン家のために初めて殺した人間だ」
フェルナーは黙って先を促した。「殺した人間」というくだりに、常人ならば驚くところであるが、彼にとってはそれも予想の範囲内であった。もとより「不幸な恋」を想像しているのだ。悲恋とくれば死別というのも珍しくない。さらに、「私が殺した」と表現される場合は……。
オーベルシュタインがその先を語ろうとしないため、フェルナーが先手を取った。
「自殺でしょう、閣下」
軍務尚書の鋭利な瞳が、想像力過多な部下に投じられた。それが何よりの答えであった。
「身分不釣り合いで親に反対されたとか、そんなありがちな話ではないでしょうな」
フェルナーはさらに揺さぶりをかけたが、ひとつため息をもらした上官は、やはりそれ以上語ろうとしなかった。
「さてな。卿の言を借りるなら、もう20年以上も語らずにいたため、記憶も風化してしまったようだ」
無遠慮な部下は上官の青白い横顔を見やると、この場での追及を断念した。
「これは、思ったよりも傷が深いのかもしれんな」
執務室を辞して官舎へと向かいながら、フェルナーはそう独りごちた。

つづく

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