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2013年2月25日 (月)

灰色の背中 (銀河英雄伝説 二次創作)

軍務省の人たち中心の二次小説です。pixiv同時掲載です。そちらの方が読みやすくできております。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2053218

灰色の背中

 新帝国暦3年の秋は、怒涛のごとく過ぎ去った。アントン・フェルナー准将は、もう歩哨の気配さえない軍務省ビルの執務室で、そっとため息をついた。今年はシヴァ星域会戦での多大な犠牲、皇帝(カイザー)ラインハルトの崩御と、国家の大災難が続いた。むろん、アレクサンデ・ジークフリード大公、現在の皇帝陛下の誕生など、喜びの報せもあることにはあったが、生後数ヵ月の赤ん坊に、国家の危機を救えようはずもない。
「そんなことは、どうでもいいんだ」
フェルナーはそう口に出して、目を閉じた。

軍務尚書が死んだ。

フェルナーはその報せを、この軍務省の執務室で聞いた。豪雨の中駆け付けたであろう、動揺した部下の表情が目に焼き付いている。フェルナーははじめ、その報せさえも地球教徒による情報攪乱なのではないかと疑った。

「おい、こんな夜に下手な冗談はやめてくれ!」
フェルナーは、憔悴しきった部下の顔を真っ向から見やって怒鳴った。
「ですが、官房長閣下……」
「いいか、俺はついさっき、あの人から命令を受けて作戦を実行したばかりだ。どこの回し者か知らんが、いい加減なことを吹聴するなら即刻拘禁するぞ」
言いながら、何となくピンと来るものがあった。

そうだ、あの人は死んだ。

「軍務尚書閣下の最期のお言葉です……」
部下が大事そうに紙片を取り出し、報告する。フェルナーは徐々に怒りが込み上げてくるのが分かった。常の彼ならば、そのような激情を部下に当てつけることなどないのだが、この時は制御しがたい怒りに震えた。
「そうか……。軍務尚書閣下は亡くなられたのだな」
つとめて抑揚を失くした声で、詮無きことを確認したが、両の拳は震えて、暴発する先を探していた。
「親衛隊は何をしていた!?実戦部隊は居眠りでもしていたのか!?」
「……申し訳ありません。ですがテロリストどもは既に射殺されております。幸い、陛下のご寝所には影響もなく……」
「幸い、だと……?陛下はご逝去を免れ得ない。今後こそ尚書閣下のお力が必要だろう!ええ!?」
フェルナーの右手が部下の襟首に伸びかけた時、
「フェルナー准将、その辺にしておけ」
フェルナーの怒号が漏れたのであろうか、いつのまにかグスマン少将とシュルツ中佐が彼の背後に立っていた。
「お前たちもいたのか」
フェルナーは改めて二人を見た後、シュルツに向かって低く問い質した。
「秘書官たる卿も随行していなかったのだな」
シュルツはやや言葉に詰まってうつむいた。
「はい……。閣下が……陛下をお見送りするだけだから、秘書官の用はない、と。そ、それよりも……今後は忙しくなるから、今の仕事をしっかりと片づけておくように、とおっしゃられて……」
「尚書閣下らしいじゃないか」
グスマンがいくぶんシュルツをかばうように言う。
「必要のない随行は許さない。無駄な護衛や随員を省く、か」

数時間前、上官から危険極まりない作戦の実行を求められて、フェルナーは自らも護衛としてヴェルゼーデ仮皇宮へ赴く旨、即座に伝えた。しかし上官は、
「狙われるのは私ではなく皇帝(カイザー)だ。親衛隊や憲兵が厳重に警備している。軍務省の実戦部隊に援護させれば充分であろう。ラグプールの暴動で負傷した卿が、実戦向きでないことは私も承知しているつもりだ。卿は卿の責務を全うするが良かろう」
反論の余地のない正論で、そうフェルナーの口を封じたのだ。

「大丈夫だと思ったから、残ったのだがなぁ」
報告に来た部下に休息を取らせ、フェルナーは執務室……ここも本来は「軍務尚書の執務室」である……の、大きな執務机を眺めた。脇にはやや小さめの自分の机がある。執務机はいつも通り、きちんと整理されていた。机の上にはペン立てとメモ用紙、小型のコンピュータが邪魔にならないように置かれており、ここの主が直前まで激務に従事していたとは思えぬほど、すっきりと綺麗に整えられている。
「まるで、意識的に片づけたようだなぁ」
グスマン少将が、フェルナーの横から机を覗き込んで嘆息した。
「まさか……初めからご自身が囮になるおつもりで……?」
年若いシュルツは、少し目を赤くしている。
「いや、違うな。閣下の机はいつもこうさ。根拠のない推論は控えろよ、シュルツ」
フェルナーはそうたしなめておいて、自らの回想に戻った。

「せめて、親衛隊だけはお連れ下さいね」
自身の随行を却下されたフェルナーは、念のため上官に注意喚起をした。皇帝陛下の親衛隊は、当然仮皇宮にいる。それとは別に、軍務尚書の親衛隊というのも存在するのだ。過度な警備を嫌う上官のお陰で、あまり活躍の場はなかったが、ヴェストファル中佐率いる軍務省の親衛隊も、精鋭揃いである。
「卿の気が済むのなら、そのように手配しておいてくれ」
上官は珍しく含み笑いをすると、心もち穏やかな表情でそう言った。
「はっ!では早速」
フェルナーは敬礼をほどこして、親衛隊詰所へと向かうため、執務室を辞したのだった。

「さて、のんびり感傷に浸ってもいられないな。元帥閣下のご遺体の搬送先手配と、家人への報せもしなければならない」
最初に現実に戻ったのは、年長者であるグスマン少将であった。同時に他の二人も動き出す。
「ご遺体は軍病院の霊安室に、一時保管ということでよろしいでしょうか。おそらく国葬でしょうから」
シュルツ中佐も秘書官の顔に戻っていた。
「そうだな。俺は当分、軍務省の運営にかけずり回らねばならない。閣下の執務机から、閣下の抱えていた仕事を、なるべく引き出してな」
彼らの上官は、徹底した秘密主義を保った男であった。腹心であるフェルナーでさえ、把握していない仕事も、数多くあることであろう。
「では、私は自分の部署に戻っている。何かあれば連絡をくれ」
グスマンはそう言い残して、足早に廊下を抜けて行った。
「フェルナー准将」
シュルツが何か言いたげに、フェルナーを見上げていた。
「どうした、シュルツ?」
フェルナーが問いかけると、シュルツは迷ったように視線を泳がせたが、意を決して口を開いた。
「准将も小官も、ひょっとすると閣下に気を遣わせていたのかもしれませんね……」

「軍務尚書を守るつもりで、俺たちが守られていた、か」
事件の収拾が済み、親衛隊長であるヴェストファル中佐が軽傷で済んだと報告を受けた時、フェルナーは妙に合点がいった。軍務尚書はなぜか親衛隊を別室に待機させ、自分ひとりで爆破されたあの部屋にいたのだという。
「シュルツには『秘書官の用はない』と言い、俺には『実戦向きでない』と一蹴し、結局危険から遠ざけられていた。……まさか、な」

”卿は卿の責務を全うするが良かろう”

……”あとは任せたぞ、フェルナー”

きっとそういう意味だったのだと、シュルツはあの人の背中を懐かしむように言った。
何が何でも、閣下のそばにいればよかった。仮にシュルツの感傷的な見方が正しかったにせよ、後を託されたとて、嬉しくもなんともない。
「第一、俺たちは……」
俺たちは、あのグレーのマントが揺れているのを見て、安心していたんだ。あの人がいるから大丈夫だと。
宇宙航路局のデータをバックアップするよう命令が下り、容量不足であれば現存のデータを消去してでもバックアップすることという、かなり無茶な指示が出た時にも、誰ひとり異論を唱える者はいなかった。あの人から、ぐうの音も出ないほどの正論が返ってくることを、俺たち軍務省の人間は皆、分かっていたからだ。そしてその正論に、絶対の信頼を寄せていたのだ。

パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥 ローエングラム王朝初代軍務尚書。

人々の記憶が彼の名を忘れるまでには、まだ多くの刻(とき)を必要とした。

(Ende)

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