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2013年2月27日 (水)

私だけの名を (銀河英雄伝説 二次小説)

いつもどおりpixiv同時掲載です。
<注意>ライトな腐向けです。ご了承いただける方のみ、お読み下さい。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2058590

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私だけの名を

軍務省官房長であるアントン・フェルナー准将は、珍しく定時に仕事を終え、彼の上官の私邸へと向かっていた。この日、上官であるパウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は、行使することの少ない公休を、一日私邸で過ごすとの情報を、フェルナーは既に入手していた。鼠色の冷たい雨が、彼の行く手を阻むように降りしきっている。
「来るな、と言われているみたいだな」
フェルナーは苦笑して呟きながら、オーベルシュタイン邸のインターホンを鳴らした。
「フェルナー准将であります。オーベルシュタイン閣下に火急のご報告があり、参りました」
執事の丁重な出迎えに、形式ばった敬礼をしたが、その実、急ぎの報告とは単なる口実に近かった。
「ようこそおいで下さいました、フェルナー様。ただいま主人に知らせて参りますので、少々お待ち下さいませ。……どうぞ、こちらをお使い下さい」
普段あまり馴染みのない、高級そうな分厚いタオルを手渡され、フェルナーはせっせと濡れた頭を拭いた。門から玄関までの距離を歩いただけで、そう濡れているわけではないのだが、そのまま返すのも、かえって執事の心遣いを無にするようで申し訳なかった。
オーベルシュタイン邸の執事ラーベナルト氏とは、以前にも顔を合わせている。確か、先代の当主の時代から仕える執事で、老齢だが気配りの行き届いた人物であった。
「クーン」
玄関前にいたダルマチアン種の老犬が、ゆっくりと尻尾を振りながら、フェルナーの横にやってきた。
「そうか、お前と会うのも2回目だな。ちゃんと鶏肉もらってるか?」
フェルナーが老犬に向かって話しかけていると、
「そいつも口がおごってな。あの肉屋の鶏肉でないと食べなくなった」
そう言いながら玄関へ出てきたのは、彼の上官であった。自室に篭っていたのだろう、ラフなシャツの上に茶色いガウンを羽織っている。
「尚書閣下、お休みのところ、申し訳ございません」
フェルナーが敬礼すると、オーベルシュタインは軽く手を挙げて返礼した。
「構わぬ」
「旦那様、応接室をご用意いたしましたが……」
後ろから執事がやって来て、たちまち老犬は執事の足元へと駆け寄っていった。食べ物の匂いでも嗅ぎつけたのだろう。
「うん……いや、この男は客ではない。仕事に関する用件だから、私の書斎へ通す。もてなしも不要だ」
「かしこまりました」
執事を下がらせると、主人は部下を連れて奥の書斎へと足を向けた。ここから先は、フェルナーにとっても未知の領域である。当主にはおよそ似つかない貴族趣味の居間を通り抜け、さらに奥へと進む。広い廊下には、それぞれ男性と女性の肖像画が飾られており、女性のほうは良く見ると、何となく上官の面差しに通ずるものがあるような気がする。若くして亡くなられたという、お母君だろうか。
「ここだ」
2階の突き当たり。どっしりとしたこげ茶色の木製のドアに、使い込まれたドアノブがついている。おそらく、代々の当主がこの部屋を使ってきたのであろう。現当主が軽く手をかけると、僅かに軋む音がしてドアが開いた。
「入れ」
フェルナーは思わず息を殺して、その書斎へと足を踏み入れた。書斎というだけあって、大きな年代物のデスクが据えられている。しかしそれよりも、本棚の数が彼を圧倒した。
「……凄いですね」
気がつくと、率直な感想を漏らしていた。デスクが古めかしいのとは対照的に、本棚の大半はここ十年のものという造りで、おそらく現当主が買い揃えたものなのだろう。
「本棚が増えすぎて、少々手狭になってしまった」
オーベルシュタインはデスクと揃いの骨董価値のありそうな椅子に腰を下ろして、ぼそりとそう言った。本棚が増えすぎてと、まるで自分に責任がないかのような言い回しに、フェルナーは失笑せずにはいられなかった。
「何がおかしい」
「……いえ、何でも」
フェルナーは隅のソファを勧められ、ひとまず腰を落ち着けた。横にはオーディオセットがあり、さらにその脇に置かれたラックには、クラシック音楽の名盤が所狭しと並んでいた。
「それで、火急の知らせとは」
物珍しげにラックの中を見ていたフェルナーに、いつもの冷静な声が問いかけた。しかし不遜な部下はにやりと笑って答えた。
「閣下、今日は休日ですし、私も仕事を終えているんです。本当に急を要する知らせがあれば、事前にTV電話(ヴィジホン)くらい入れますよ。在宅確認もせず突然押しかけた段階で、閣下はお気づきでしょう」
「ほう……」
オーベルシュタインはその義眼で部下を睨みつけると、視線を外さずに問いかけた。
「すると卿は、用もなく休日の上官を冷やかしに来たと認める、ということだな」
常人であれば、この冷たい威圧に堪えられるものではないだろう。しかしこの程度の反応は、彼にとって既に織り込み済みであった。
「用がないわけではありませんよ。閣下の素顔を垣間見て同僚たちに知らせることで、とかく非人間的と思われている閣下の人間らしさを知ってもらうという任務があります」
「……命令した覚えがない」
「それはそうでしょうとも」
我ながら作り笑顔も疲れてきたと、フェルナーが嘆息しかけた時、オーベルシュタインがすっと立ち上がった。
「すると、卿がいる限り、私の休日に安寧はないということだな」
上からの凍えんばかりの視線は、さらに威圧感を増した。
「さきほど、玄関では『構わぬ』とおっしゃったではありませんか」
「ほう……口答えできるとは卿らしいな。それならば、相応の遇し方がある」
はるか上の義眼が、一瞬にしてほんの数センチ先に迫っていたことに、フェルナーは気づくのが遅れた。

「ぐ、遇し方とは……」
半白髪の頭、ほっそりとした輪郭に人を射抜くような両の義眼、そして薄い唇。オーベルシュタインは腰をかがめた姿勢で、フェルナーの首元にその顔を寄せた。フェルナーは予想外の上官の行動に後ずさりたかったが、ソファには背もたれがあり、さらに後ろは壁であった。
「私は上官の休日を脅かすような、躾の悪い部下を持った覚えはない。卿とは初対面だ。名を名乗っていただこうか」
いつもよりさらに低い声が、首筋から耳に伝わって、フェルナーは寒気を覚えた。
「名乗れないのなら、不法侵入者として憲兵に引き渡すだけだが」
今のオーベルシュタインは、本気とも冗談とも取れない。仕方なくフェルナーは名乗った。
「アントン・フェルナー准将です」
「明瞭な回答で感心した、フェルナー准将」
オーベルシュタインは褒めるつもりなのか、壁に手をかけてフェルナーの後ろに回りこむように、さらに顔を寄せた。
「しかし、ここは私の私室だ。准将などという無粋な言葉は使いたくない。どうだろうか」
「で、では、フェルナーで結構です」
「そうか……。もう少し、親しげな呼び方はないものだろうか。卿は私と、親睦を深めに来たのであろう」
答えない部下を見やって、オーベルシュタインは壁から手を離すと、その手で従順ならざる部下の顎をスッと撫でた。フェルナーの方はと言えば、少なからず混乱していた。その気になれば力ずくで逃げ出すことなど容易である。むろん、オーベルシュタインに本当にそういう趣味があるのなら、丁重にお断りして逃げ出すつもりだ。しかし妙なのだ。彼がもし、本気でフェルナーを口説こうというのなら、もう少し筋を通すような気がする。
「フェルナー」
「は、はい」
「卿は、そうして焦らすのが好きなのか」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「私は卿……お前を、何と呼べば良いか」
「フェルナーでいいじゃありませんか」
フッと笑ったのか、生暖かい息が首筋にかかった。
「もう一度聞こう。何と呼べば良い」
「あ、アントンと、親しい友人は呼びます」
「ファーストネームか。そうだな、より親しさが表れるというものだ」
オーベルシュタインは一瞬何か考えるような表情をして、すぐにまた囁いた。
「アントン」
顔の位置が、首筋から耳元に上がったらしい。囁く息遣いが耳たぶに触れて、フェルナーはくすぐったさを覚えた。
「そう呼ぶのは、他に何人いる」
「……はい?」
「ファーストネームを許されているのは、何人いるのかと聞いている」
「両親を除けば、2,3人……ごく親しい者たちだけです」
「そうか……」
オーベルシュタインの左手は、ソファについている。先ほどからフェルナーを翻弄しているのは右手であった。その右手が彼の前を横切り、彼の右腕を捕らえた。
「か、閣下」
力ずくで逃げられるというのは、過信であったかもしれない。思いのほか力強い手で、フェルナーの右腕は縫い止められた。
「赦せぬな」
心もち強い口調がフェルナーの耳元で投げかけられる。
「他の2,3人と同列に扱われるのは赦せぬ。他の呼び名を考えてもらおう。誰も使わない呼び名を」
これはもしかすると、取り返しのつかない事態なのではあるまいか。フェルナーはここに至り、先ほど強引にでも逃げ出しておかなかったことを後悔した。確かに上官の意外な素顔は垣間見たが……。
「どうした。私はこうして、お前に素顔を見せているのだ。お前も手の内を見せるのが筋というものであろう」
相変わらずちょこちょこと正論を挟んでくるところが、嫌味にしか思えない。
「トニィ……。幼い頃、母親がそう……今は誰も呼びません」
「トニィか」
オーベルシュタインは満足そうに頷いた。
「トニィ……この名は私のものだ」
「閣下……」
フェルナーの言葉を、その名だたる義眼で押しとどめると、ため息をつくように息を吐いた。
「閣下と元帥は禁止としよう。私にも相応しい呼び名を考えるのだな」
「え……」
フェルナーは沈黙した。いや、そうせざるを得なかった。失礼な呼び方はできないし、かといって彼の満足するような呼び方を思いつかない。万事休すとはこのことか。フェルナーが観念しかけると、耳元でクックックと低い声が聞こえた。オーベルシュタインはフェルナーの右腕を離すと、またあの骨董価値のありそうな椅子に戻った。
「これが卿への遇し方だ、フェルナー准将」
そう言って、声を殺して笑っている。
「閣下、私をからかったんですね?」
オーベルシュタインが頷くのを見て、フェルナーも笑った。
「卿であれば、刺激的なものを喜ぶと思ってな……。だが、存外動揺していたようだ」
上官が面白そうな顔をしているので、フェルナーは安堵した。こういう顔が見られるから、自分は彼をつつき回すのを止められないのだろう。
「そんなことありませんよ。第一、閣下は演技が下手です」
「ほう、それほど余裕があったとは気づかなかった」
「それに、私がこのことを同僚に言いふらしたらどうするんですか。閣下にしては短慮なやり方でしたね」
安全が確保された途端、いつもの軽口が出る。
「それ相応の対処をするまでだ。例えば、軍務省でも卿をトニィと……」
「ああっ、それだけはご勘弁下さい」
勝負あったという顔で、オーベルシュタインは含み笑いをした。
「ならば、卿も口外せぬことだ」
二人は立ち上がると、いつの間にか雨音がしなくなったことに気がついた。
「せっかく来たのだ。コーヒーでも飲んで行くが良い。階下に用意させよう」
オーベルシュタイン家当主は、使用人室直通のインターホンで執事に用件を告げると、招かれざる客人を階段へと促した。

(Ende)

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コメント

はじめまして!

ゆいさんの小説の、オーベルシュタインとフェルナーのコンビ以上CP未満といったような良い意味で曖昧な描写がとっても萌えます!
どの小説も最高で、特にこの小説の慌ててるフェルナーや、部下をちょっとからかってみるオーベルシュタインが物凄く可愛かったです!

pixivで拝見したのですが、ブクマと評価だけでは物足りなくて、こちらの方でコメントを送らせていただきました。pixivコメントで送れないチキンですみません…。

> スイ様

コメントありがとうございます。
ひゃあぁぁ(*´∀`*)
嬉しいお言葉をいただき、感動でございます!
pixivからおいでいただいたのですね。自分が勝手に萌え散らかしているので、引かれるんじゃないかなと思っていましたが、萌えていただきありがとうございます(*´∀`*)本望です。

どうぞ今後とも、コンビ以上恋人未満の軍務省ズをよろしくお願い申し上げますm(__)m

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