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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」4.青いハンカチ (銀河英雄伝説 二次小説)

4.青いハンカチ

 ロイエンタールがオーベルシュタインの後を追おうと歩き出すと、意外にも彼は近くに突っ立っていた。壁に手をつき項垂れて、顔までは見えないが、やや呼吸が安定していないように思える。
「オーベルシュタイン」
ロイエンタールが後ろから名を呼ぶと、彼は弾かれたように顔を上げて振り返った。やはり、もともと青白い顔がさらに青白くなっているし、先ほどと同様の汗をかいている。
「大丈夫か、オーベルシュタイン。やはり身体を壊しているな」
オーベルシュタインは答えなかったが、何度も首を横に振った。
「意地を張っても仕方ないだろう、その顔色が証明している。差し出がましいようだが、忙しいからといって体調管理を怠るな。不調を自覚しているなら医者へ……」
ロイエンタールの言葉がそこで途切れた。オーベルシュタインの両目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出したからである。何かの間違いではないかと思って見直したが、ほんの僅かに表情を歪めて、確かにオーベルシュタインは泣いていた。
「な、何を泣く必要がある」
ロイエンタールは唖然として目の前の男を眺めるが、その男は相変わらず何も言わない。……いや、言えないのだと分かった。必死に涙を止めようとしている。ロイエンタールはさっと周囲を見てから、ともかくオーベルシュタインを隣の会議室へと押しやった。自分も中へ入り、かちゃりと鍵をかけて、改めてオーベルシュタインの顔を覗きこんだ。
「急に泣き出すやつがあるか。外聞が悪いではないか」
そう言いながら、何か自分は、彼を傷つけるようなことを言っただろうかと首をかしげた。するとオーベルシュタインがようやく、未だ涙をこぼしながらではあったが口を開いた。
「すまない……何でもない。迷惑をかけた」
そう口にしてしまったことで、オーベルシュタインはさらに涙が溢れるのが分かった。……嬉しかった。醜態を咎められ、冷酷に非難され嫌われると思っていたのに、彼は心配してくれた。わざわざ追いかけてきて、たとえ誤解だとしても、自分を気遣ってくれたのだ。それなのに自分は無様に涙を流し、彼を困らせ、外聞が悪いなどと言わせている。嬉しさとやるせなさで、ますます涙が溢れた。
「何でもないで済むとは思えん。ほら」
軍支給のハンカチを差し出されて、オーベルシュタインは躊躇いながらも素直に受け取った。
「返さなくていいから、ここで落ち着くまで泣いていけ」
泣かれる心当たりもないし、本人も「迷惑をかけた」と言っているのだから、自分が起因の涙ではないのだろう。ロイエンタールは釈然としないまま、しかし次のスケジュールにも支障が出そうだったため、ハンカチとオーベルシュタインを置いて部屋を出ることにした。釈然としなくても、泣きたい時はひとりで泣かせてやった方が良い、ということもある。
ロイエンタールが出ていってしまうと、オーベルシュタインは徐々に激情もおさまり、自然と涙が止まった。
”返さなくていいから、ここで落ち着くまで泣いていけ”
それがどんな殺し文句だか、彼は自覚していないだろう。
オーベルシュタインは手渡された青いハンカチを胸の前で握りしめ、かすかに漂うコロンの香りに満たされた。


 その夜、オーベルシュタインはまんじりともせずベッドの中で寝返りを繰り返していた。ロイエンタールの青いハンカチを枕元に置いて、時折それを見つめては瞼を閉じる。
あんなことが起こるとは想像もしていなかった。迷惑をかけてしまったが、大切な思い出にしよう。瞼の裏に浮かぶロイエンタールの顔は、いつも冷ややかに笑っていたが、今日ばかりは温かな眼差しで自分を見ていた。本当はあの時、彼の表情を見る余裕などなかったが、記憶は都合のいいように補完され、甘い思い出になって行く。
ロイエンタール
ロイエンタール、卿が愛しい

(つづく)

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