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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」11.還らぬ人 (銀河英雄伝説 二次小説)

11.還らぬ人

 10月末、皇帝ラインハルトの一行がワーレン艦隊に保護され、翌11月、宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥に、ロイエンタール討伐の勅命が下る。まもなくフェザーンへ帰投した皇帝ラインハルトに、軍務尚書オーベルシュタインが謁見を求めた。
「陛下にお願いを申し上げたく、参上いたしました」
総旗艦ブリュンヒルトの中で、ミッターマイヤー元帥から類似する言葉を聞いたばかりのラインハルトは、それでもこの男がミッターマイヤーと同様の願いを口にするとは考えられず、首をかしげた。
「ほう、願いだと?珍しいではないか、オーベルシュタイン」
「わたくしを、惑星ハイネセンへお遣わし下さい」
「確か以前にも、同じことを言っていたな。だが、ロイエンタールが旗色を明確にした今となっては、時すでに遅しではないか。仮に卿がかの地へ赴こうとも、航行中に妨害を受けるか、到着したところを射殺されるか、いずれにしろ事態の進展を望むには手遅れだ」
「ロイエンタール元帥は私を殺しません」
「……どういう根拠があってそう主張する」
「それは申し上げられませんが、彼は私を殺しません。その一点をお信じあって、わたくしをハイネセンへ遣わして下さい。身命を賭してでも必ずやロイエンタール元帥を説得し、陛下の御元へお連れいたします」
「背いた者を連れ戻すために、国家の重鎮たる卿を死地に送れと言うのか。ロイエンタールが卿を殺さなくとも、彼の部下が卿を殺すだろう。予は彼の寛恕を認めぬ。節を曲げて妥協するのは予ではなくロイエンタールの方であろう」
「……御意にございます」
「ならば下がれ」
「いえ、それでは別のお願いをいたしたく存じます。どうぞ陛下、今すぐわたくしめの軍務尚書職をお解き下さいませ」
「何だと?」
「退役し、いち民間人として、惑星ハイネセンへ赴きたく存じます」
「正気で言っているのか、オーベルシュタイン。卿にとってロイエンタールはそこまで価値のある男か。予のもとから去ってでも、助命したいというのか。卿と彼との間に友誼があったとは、ついぞ耳にしなかったが」
「……」
「どうした」
「……わたくしとロイエンタール元帥は愛し合っております」
「な……に?」
「必ず説得して参ります。もし叶わぬ時には……彼と刺し違えてでも、ロイエンタールに膝を折らせましょう」
ラインハルトは微塵も表情を変えずに語るオーベルシュタインの、その内心を測りかねたが、君主としての明確な答えを提示した。
「卿の決意は分かった。卿が望むなら軍務尚書の職を解任しよう。だが、尚書職が一朝一夕で引き継げるほど甘いものだとは、卿も思っておるまい。予の言いたいことは分かるな」
「はい……」


 新帝国暦2年12月16日、オスカー・フォン・ロイエンタールは戦場で受けた負傷により、惑星ハイネセンの総督府にて、16:51、還らぬ人となった。
オーベルシュタインは、「手を血塗らずして対立者を葬り去った」などと冷評されていたが、何も為すことのできなかった自身を省みれば、どのような酷評であっても……たとえ「ロイエンタール元帥を陥れた者」として処断されようとも構わなかった。

「ミッターマイヤー元帥が、あえて自分の手で親友を討った意味が分かるか」
アントン・フェルナー准将にそう問いかけたのは、ミッターマイヤーの帰還を翌日にひかえた年末の一日のことである。
「さあ、小官などには一向に分かりませんが、尚書閣下にはいかがお考えですか」
「うむ。もし皇帝(カイザー)がご自分の手でロイエンタールをお討ちになれば、ミッターマイヤーはどうしても皇帝に対する反感を禁じえないだろう。君臣の間に亀裂が生じ、ひいてはそれが拡大して取り返しのつかないことになるやもしれぬ」
「はあ……」
フェルナーは、曖昧に反応しつつ、淡々として語る軍務尚書の、削ぎ落とされたような横顔を見やった。
「だが、自分が指揮官としてロイエンタールを討てば、友の讐(かたき)はすなわち自分自身、皇帝をお怨みする筋はないと、そう考えたのだ。彼はそういう男だ」
「そうお考えになるについては、何か証拠がおありですか」
オーベルシュタインは微かに半白の髪を揺らした。
「私の勝手な解釈だ。真実がどうかは知らぬ……それにしても、私も口数が多くなったものだ」
オーベルシュタインは苦笑した。「彼」の最後の望みは、オーベルシュタインの笑顔だった。天上(ヴァルハラ)で彼が喜ぶなら、いくらでも笑ってやろう。
それにしても、ミッターマイヤー元帥が羨ましい。フェルナーに語りながら、オーベルシュタインは心底そう思った。逃れられぬ運命ならば、自分の手で彼を殺したかった。主君を恨むことも、ミッターマイヤーを恨むこともできず、その矛先は行方を失っていたから。

ロイエンタール、聞こえるだろうか
待っていてくれ
私を見ていてくれ
私はこれからも、卿を愛し続ける


 年が明け、新帝国暦3年2月、オーベルシュタインは皇帝ラインハルトからの呼び出しを受け、ラインハルトの執務室で謁見した。
「卿も承知しているように、新領土(ノイエ・ラント)では未だに騒乱が絶えぬ。予が直接赴こうと思っていたが、卿に全権を委ねるゆえ、惑星ハイネセンへ行き、騒乱の鎮圧にあたれ」
豪奢な金髪を持つ宇宙の統治者は、洗練された美しい声で臣下にそう命じた。
「承知いたしました」
オーベルシュタインが恭しく頭を下げると、ラインハルトは付け加えるように言った。
「ロイエンタールの遺体が保存されている。予の代理としてしかと確認し、そののち、卿の手で葬ってやるが良い」
「……ご厚情、痛み入ります」
もう一度こうべを垂れてから、扉に向かって歩き出す。
「オーベルシュタイン」
主君からの再度の呼び掛けに、オーベルシュタインは振り返った。
「はい、陛下」
「卿は、予を恨むか」
「……いえ、お恨みする筋のことではございません」
「そうか。では行って、早々に出立の準備をせよ」
「御意」

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