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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」2.思慕 (銀河英雄伝説 二次小説)

2.思慕

 あれは自分が大尉だった頃である。イゼルローン要塞駐留艦隊の一部隊に所属していたオーベルシュタインの前に、同じく大尉になったばかりの彼が任官してきた。自分より6つほど年少の同僚は、鋭気に満ち、上官にも上流貴族の士官にも媚びず、何事にも筋を通す男だった。そのあたりは自分にも共通することと自負していたが、その彼は自分ほど不器用でもなく、同僚や下士官からの信頼も厚い美貌の持ち主だった。自分と意見を同じくしている時でさえ、彼の周りには常に人が集まり、例え上官に容れられることがなくても、彼とその周囲は光り輝いていた。
オーベルシュタインはもとより他人と群れるのを好まなかったが、少年の面差しを残したその青年に、言いようもなく魅かれていることを自覚していた。しかし、積極的に彼を取り巻く人々の中に入ることもできず、仲間たちと楽しげに笑う彼の姿を、遠くから見つめるだけの日々を送った。そのうち二人とも任地が変わり、それきりの関係である。いや、そもそも関係ですらない。それが奇しくも、ローエングラム元帥府で再会することになろうとは。彼はそう、鋭く輝く青い左目と、暗く沈んだ黒い右目「金銀妖瞳(ヘテロクロミア)」を持つ、オスカー・フォン・ロイエンタールである。

 元帥府でラインハルトの参謀を務めるようになり、ロイエンタールと顔を合わせることもあったが、自分はあくまでラインハルトの旗艦に搭乗する身であり、彼には別に参謀が付いている。ちりと胸を焦がしながらも、元々彼に近づいたこともなかったのだから、会える時に見つめられるだけ見つめれば良いと割り切ることができた。総参謀長となってからは、提督たちの挙動に口を挟めるようになったが、そのことにより、むしろ関係は悪化した。はなから嫌われ役を買って出ていたのだから、当然と言えば当然であり、彼の野望のためにも必要なことであった。いずれゴールデンバウム王朝の打倒が成し得た時に、関係改善に努めようと唇を噛んで見守った。

 そしていよいよ、悲願だった新王朝の樹立が叶った。気が付けば自分とロイエンタールは共に元帥となり、ウォルフガング・ミッターマイヤーと合わせて帝国軍三長官の地位を得た。自分と彼との間には、すでに埋められない溝が横たわっていたが、それでも御前会議や三長官会議などで、はるかに彼と接触する機会が増える。彼も自分も要職にある身であるから、他の提督たちよりも首都にとどまる可能性が高く、言葉を交わせないまでも、その美しい色白の顔を眺めることはできる。そして、任官式に初めて目にした新しい軍服と青いケープに身を包んだロイエンタールは、これまでよりもいっそう気高く気品溢れて眩しかった。くすぶっていた炎が燃え立つのを感じ、彼への思いが募るたび、ほろ苦い気持ちになる自分を鼓舞するために甘いコーヒーを飲み干すのである。
……そんな浮かれた内心を揶揄されたようで、オーベルシュタインはフェルナーの世間話に、動揺を隠すだけで精一杯だったというのが、彼の不可解な反応の理由であった。

 物思いに耽っていたレストランから出ようと立ち上がりかけたところで、オーベルシュタインは一人の貴婦人と遭遇した。
「まあ、パウル様」
友人と連れ立って来たらしいその貴婦人は、友人たちを先に席へと促すと、一人立ち止まってオーベルシュタインに会釈した。彼女は母方の親類であり、オーベルシュタインも子どもの頃から面識のある人物であった。無碍(むげ)に立ち去ることもできず、会釈を返して彼女の近況報告に付き合った。
するとふいに見覚えのある顔がレストランの入り口に現れ、オーベルシュタインは思わずそちらへ顔を向けた。ロイエンタールが金髪の女性を伴ってやって来たのである。何という偶然であろうか。思ってもいないところでプライベートの彼の姿を見て、オーベルシュタインは胸がときめいた。ロイエンタールは優雅な物腰で女性をエスコートし、いつもの冷ややかな笑みではなく、甘い艶やかな微笑を浮かべている。こんなにも違う顔をするのかと、オーベルシュタインは純粋に驚いた。驚いてから、なぜか胸が痛むことに気が付いた。魅力的な甘い笑顔は自分に向けられたものではなく、あの女性に向けられたものであるからだと、うっすらと意識に上る。それでもこうしてその顔を眺めてしまうのだから、始末に負えない。ちらりとロイエンタールがこちらを見たような気がして、オーベルシュタインは慌てて目の前の貴婦人へと視線を戻した。
「お知り合いですの?」
いつの間にか貴婦人も彼の視線の先を追っていたようだ。
オーベルシュタインは頷くと、
「同僚です」
と短く答えた。
彼女と別れると、たゆたった炎を消せぬまま、オーベルシュタインは足早に店をあとにした。
ロイエンタールは、今夜あの女性を抱くのだろうか。心が焼け落ちてしまいそうな、熱く苦しい感覚が彼の胸を支配した。

(つづく)

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