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2013年3月28日 (木)

主人の横顔 (銀河英雄伝説 二次小説)

前作、「酸いも甘いも……」の外伝(?)SSです。オーベルシュタイン家の執事ラーベナルト視点。前提条件が腐っていますので、覚悟の上でお読みください。

いつものように、pixiv同時掲載です。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2169835

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主人の横顔

 高級軍人、それも元帥クラスの軍人が、皇帝陛下に反旗を翻した。報道管制も敷かれていなかった新帝都フェザーンの一隅で、オーベルシュタイン家の執事ラーベナルトも、その報道を耳にした。立体TV(ソリヴィジョン)のニュースキャスターの声をそれとなく聞き流しながら、主人のいないプライベートタイムを寛いでいた老執事は、聞き覚えのある名前が読み上げられ、思わずテレビ画面に向き直った。
「名称と謳われるロイエンタール元帥は、現在、旧自由惑星同盟領の総督として、惑星ハイネセンに赴任中でしたが、ハイネセンに向かって航行中の皇帝(カイザー)ラインハルト陛下の弑逆(しいぎゃく)を図ったとされています。帝都にお戻りになった陛下は……」
ラーベナルトの頭に、それ以上の情報は入ってこなかった。ロイエンタール元帥と、確かに聞こえた。

オスカー・フォン・ロイエンタールといえば、フェザーン遷都の少しあと、この屋敷の主人であるパウル・フォン・オーベルシュタインが、珍しく屋敷への宿泊を許した人物である。そして、それだけではなかったことを、ラーベナルトも無論知っていた。主人は何も語らなかったが、使われた痕跡のない客間、二人分の体の痕が残ったベッド、それらを掃除し整えたのは、他でもないラーベナルト自身である。

二人は仕事の後この屋敷で夜を過ごし、朝食をとって出勤するという日々で、そのほとんどを主人の私室で過ごしていたが、朝夕の食事を給仕する際に垣間見る主人の様子は、これまで見たこともないほど安らいで、幸せそうな顔をしていた。
「お小さい頃でさえ、あんなお顔はなさらなかった……」
主人の生い立ちを思えば、おそらく幸せなど望みようもなかったのだろう。彼を被虐の身に立たせていた絶対権力の父がこの世を去り、この屋敷にひとりとなってからも、彼は己を強く戒め、何者にも心を許さず多くを求めず、まるで氷のように当主としての役割を果たしていた。
そんな主人が、初めて友人……と言って良いかは分からないが、ロイエンタールを連れて帰宅した時、その柔らかくほころんだ表情に、どれだけ驚かされたことだろう。主人の連れは礼儀正しくラーベナルトに挨拶すると、キャビアやソーセージ、チーズなどといったワインに良く合う食材を、手土産としてラーベナルトへ手渡した。二人の夕食が済むと、さっそくそれらの食材でカナッペを作り、ワインと共に主人の部屋へ届けた。

三日間であった。二人がこの屋敷で寝食を共にしたのは、三夜であったと記憶している。次の夜、単身で帰宅した主人に、お客様はお見えにならないのですかと問うと、戦場へ行ったと、せつなげな返答があった。
その顔を見て、ラーベナルトは二人の仲を確信した。同性だとか結婚できないとか、やがて破滅を迎えるのではないかとか、まったく頭をよぎらなかったと言えば嘘になるが、主人が安らいで幸福であるなら、それでも良いと思っていた。無論、咎め立てる気もなかった。

しかしそれきり、主人がロイエンタールを連れてくることはなかった。先ほどの報道によれば、新領土(ノイエ・ラント)の総督であるということだから、きっとあの後から、主人でさえ彼に会えなかったのだろう。そして、おそらくこれからも……。

カランカランという鐘の音が、主人の帰宅を知らせた。ラーベナルトは慌てて玄関へ向かうと、深く礼をして主人を出迎えた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
オーベルシュタインは鞄を執事に預けると、彼の顔を一瞥してから二階の私室へ向かった。ラーベナルトが後に続いて私室へ入ると、主人は軍服の襟を緩めてから手を止め、執事の方へ向き直った。何事かとラーベナルトが見上げると、主人は何かを言いたげにこちらを見つめていたが、瞑目して微かに半白の髪を揺らしてから、再び襟に手をかけた。着替えを手伝って部屋を辞し、夕食の給仕の準備を整えて、主人の戻るのを待った。

主人はこの状況を、どう考えているのだろう。自分がいくら考えを巡らせても無意味なことと分かってはいたが、理性と感情は切り離そうとしてもなかなか思い通りにいかないものだ。ロイエンタールの姿を見なくなってからも、時折届くメッセージカードや贈り物などで、二人の付き合いが変わらないことをラーベナルトは知っていた。主人も別に隠し立てる様子はなかった。

「ラーベナルト」
二階から降りてきたオーベルシュタインが、給仕姿で迎える執事に声をかけた。
「はい、旦那様」
長身な主人の顔を見上げると、先ほどとは違って躊躇いのない表情で、しかしどこか儚げな目をして、主人は肉の薄い唇から言葉を紡いだ。
「しばらく家を空けるかもしれぬ。そのつもりでいてくれ」
どこを見つめているのか判断のつかない遠い目をする主人に、執事はタブーを犯した。
「行かれるのですか」
どこへ、誰のもとに、という大事な部分を省いていたとしても、それはしてはいけない質問だった。そもそも、使用人が主人の行動にいちいち口を差し挟むことなど許されない。厳格な主人であればなおのことである。しかし主人は気分を害した様子もなく、ただそっとかぶりを振った。
「それは陛下の御意ではない」
そう答えてから、
「ただ、多忙になる故、軍務省に泊ることが増えるだろう」
と付け加えて、オーベルシュタインは食卓の椅子に腰を掛けた。
「承知いたしました」
グラスにワインを注ぎ、料理を主人の前に差し出しながら、ラーベナルトは食卓の上に飾られた一輪差しの横にある写真立てに目をやった。それはロイエンタールがこの屋敷に宿泊した最後の晩であった。いつものように食後のワインを私室に届けると、主人から写真を撮ってほしいと頼まれた。
「今夜の記念に」
そう言って、照れてそっぽを向くロイエンタールを宥めすかしてようやく撮影されたその写真を、ラーベナルトは現像して主人の書斎と食卓に飾ったのである。

気がつくと、オーベルシュタインもラーベナルトの横から、その写真を眺めていた。感情のこもらぬ……と世間では言われているその目を細めて、懐かしむように。
写真の中の二人は、互いに照れながらも幸せそうに笑っていた。

(Ende)

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