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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」8.不穏の種 (銀河英雄伝説 二次小説)

8.不穏の種

 新帝国暦1年12月、皇帝ラインハルト率いる第二次神々の黄昏(ラグナロック)作戦と呼称される大親征が、自由惑星同盟へ向けて行われた。この年の末から新年にかけては、怒涛の勢いで事態が進展した。同盟軍の命運を賭してのマル・アデッタ星域会戦、全軍の指揮を執った老齢の宇宙艦隊司令長官の戦死。一方でイゼルローン要塞が再びヤン・ウェンリーの奇策により失陥した。新銀河帝国は自由惑星同盟を完全併呑し、勅令をもってその支配を確立させた。彼らの皇帝は、全宇宙の9割以上をその手中に収めたのだ。分離独立を宣言したエル・ファシル独立政府とイゼルローンに立て篭もるヤン・ウェンリーの一党を除いて。
 ともあれ自軍に大きな損害もなく、無事に旧同盟首都ハイネセンに到着したとの報を受け、フェザーンに残った将兵たちは歓喜の声を上げていた。オーベルシュタインもロイエンタールの無事に、胸をなでおろした。もとより彼我の戦力差は大きく、予定通りといえるのだが。
「順調に事を終え、戻って来るとしたら3月か」
新領土(ノイエ・ラント)にて発布された「冬バラ園の勅令」とその式典の様子を、軍務省通信室のメイン・スクリーンで確認したオーベルシュタインは、出席者の中にロイエンタールの後ろ姿を認めて、彼と再び会える日に想いを巡らせた。イゼルローン要塞の処遇についても考慮されており、ラインハルトにはイゼルローン回廊への遠征の意思があるようだが、いったんはフェザーンに帰還すべしという意見も多い。
流亡の私兵集団となったヤン艦隊の討伐に、皇帝自らが乗り出す必要もない。ロイエンタールが指揮官として赴く可能性はあるが、わずかの月日でもいい、戻ってきてくれたらと願わずにはいられなかった。だが、彼にはもうひとつ、ロイエンタールに会って質したいことがあった。

「エルフリーデ・フォン・コールラウシュなる名前に心当たりはあるか」
ハイネセンの冬バラ園におかれた仮司令部の一室で、統帥本部総長ロイエンタールは、軍務尚書たるオーベルシュタインからのFTL(超高速通信)を受信していた。
「いかがかな、ロイエンタール元帥」
画質が著しく劣化したFTLでは、彼の顔色など分かりようもなかったが、ロイエンタールはオーベルシュタインの完璧なまでの「軍務尚書の顔」に目を投じていた。
「お答えする前に伺っておく。この通信は公用か、それとも私用か」
ロイエンタールの問いに、オーベルシュタインはほんの一時瞼を閉じた。ロイエンタールは口角を吊り上げて笑った。いつの間にこの男は、言葉よりも表情が雄弁になったのだろう。
「私用だ」
オーベルシュタインの正直な返答を受けて、ロイエンタールは頷いた。
「ならば話そう。その女のことは知っている。故リヒテンラーデ公爵の一族と名乗っており、大叔父の仇である俺を殺そうと、自宅で待ち伏せされた」
どうやらそのあたりの事実は掴んでいなかった様子で、オーベルシュタインは意外そうな顔をした。
「それだけか」
「いや……その後、力づくでものにした。何でもその女は、俺が破滅していく様を見ることが生きがいだとか、なかなか良い趣味をしている。以来、自宅に置いていた」
悪びれた様子のないロイエンタールに、オーベルシュタインは少し寂しそうな顔をした。
「コールラウシュなる女は、卿の子を宿しているというが」
「それは知らなかった。知っていれば堕胎させている」
オーベルシュタインは再び瞼を軽く閉ざすと、少し考えるような仕草をして、ゆっくりと目を開けた。
「そうか。……卿を信じる」
「おわかりいただけて、ありがたい。ちなみに卿はよく誤解をするから補足しておくが、卿とこうなってからは、あの女とも会っていない。そもそも少し前に、自ら姿を消したのだからな」
「……分かった。だが、悲しい」
オーベルシュタインはそう言い残して、通信を切った。
ロイエンタールは通信の初めに見た軍務尚書のオーベルシュタインと、最後に悲しいと残したオーベルシュタインの両方の顔を思い浮かべて、彼らしくなく戸惑った。やはり、彼の気持ちを受け入れたのは、間違いだったのではないだろうか。なまじ受け入れてしまったからこそ、彼をあんなにも苦しげな顔にさせているのではないかと。

 「ロイエンタール元帥に不穏の気配あり」という報は、歴史的な通信文となって皇帝(カイザー)ラインハルトのもとへ届いたが、ロイエンタール自身に叛意は認められず、結果から見れば瑣末な出来事であった。しかしその瑣末な、そして低俗な噂が、二人の運命を濁流の中に飲み込んで行くのであった。

(つづく)

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