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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」7.蜜夜 (銀河英雄伝説 二次小説)

7.蜜夜

 その夜、オーベルシュタインはフェザーンに新しく構えた私邸に、ロイエンタールを招いた。執事による温かで家庭的な夕食をとり、二人はオーベルシュタインの私室へ上がった。帝都オーディンにあった先祖代々の屋敷と違い、機能的で簡素な館であったが、彼の書斎と寝室は、広々と取られていた。
「ここだ。入ってくれ」
オーベルシュタインは入口の扉を開けて、ロイエンタールを中へと促した。大きめの書斎机、所狭しと並べられた本棚、オーディオセット。隅にはゆったり目のソファと丸テーブルが置かれていた。そして開け放たれた扉の向こうが、寝室のようだった。ロイエンタールが部屋の様子を眺めて立っていると、かちゃりと扉の閉まる音がして、半瞬の後、後ろからギュッと抱きすくめられた。あまりの性急さにロイエンタールは思わず笑ってしまった。
「わかったわかった、卿は意外と大胆だな」
6つ年上の恋人の腕を引っ提げたまま、ロイエンタールはスプリングの利いたソファに身を委ねた。オーベルシュタインを横に座らせると、間もなくして階段を上がってくる足音が聞こえた。オーベルシュタインが食後酒のワインを所望したのである。執事が恭しく持参したそのワインは、帝国暦410年物の白ワインだった。
「秘蔵の逸品ではないか。さすがは由緒正しき貴族様だな。俺のような成り上がりの貴族とは違うというわけか」
珍しげにワインを吟味するロイエンタールの横顔に見惚れ、オーベルシュタインは静かに微笑んだ。どことなく深く碧い空を思わせるような、柔らかな微笑だった。彼の表情の変化にロイエンタールも気がつき、その静謐な笑顔を見つめた。
「卿がそんな顔で笑うとはな」
照れたように俯くオーベルシュタインを眺めながら、ワインを2つのグラスに注いだ。グラスとグラスをチンと弾かせ、二人は上質なワインを口に含んだ。
「さすがに、うまいな」
ロイエンタールが舌の上でワインを転がして言う。
「ああ、そうだな」
オーベルシュタインはその芳醇な香りを楽しんでいるようだった。執事が添えてくれたカナッペをつまみながら、二人はしばらくワインと雑談に興じた。
「……すると卿は、10年も前から俺に惚れていたということか」
ロイエンタールが本来鋭い目を丸くして吹き出した。いつから俺に惚れていたのだとロイエンタールに尋ねられ、オーベルシュタインはイゼルローン時代の出来事を話して聞かせたのだ。
「呆れたやつだ。前線基地にいて、気持ちを隠してどうする。どちらがいつ死ぬか分からんのだぞ」
もっともな指摘に、返す言葉もなかった。オーベルシュタインは恥ずかしさを隠しながら、ごくりとワインを飲み下した。
「卿は……卿はなぜ、私の気持ちを受け入れようと思ったのだ。私は卿に、というより、皆に疎まれている自覚があった」
疎まれているとは控えめな表現で、嫌悪されていると言い換えた方が正確だったかもしれない。事実、会議室に彼が入室するだけで、一同が苦々しい表情になるのを、オーベルシュタインだけでなくロイエンタールも何度も見ている。そしてロイエンタール自身も、その表情に同調している一人だった。
「そうだな。強いて言えば、卿のそのひたむきさと一途さかな。俺は今まで、これほどひたむきに愛された記憶がないからな」
一方的に言い寄ってくる女と幾晩かベッドを共にしては、一方的に捨てる。そんな生活を繰り返してきた彼は、愛など求めたこともないし、求めようとも思っていなかった。だが今は、驚くほどオーベルシュタインのひたむきな想いに、慈しみを覚えていた。
「愛している、ロイエンタール」
「分かっている」
「もう離さない」
「……俺も離さないよう努力する」
どちらからともなく唇を触れ合わせると、書斎の明かりを落として寝室に向かった。


 朝の匂いを感じて、オーベルシュタインは目を開けた。ぐるりと時計の方へ目をやると、もうすぐ目覚ましの鳴る時刻だった。そっと起き上って恋人の寝顔を見ていると、このまま時間が止まればいいのにと、詮無きことを考えてしまった。手を伸ばし、肩をゆすって彼を起こすと、まだ眠たげにうっすらと目を開けて、また閉じて寝てしまった。
寝起きの悪いタイプか。確かに、夜の帝王といった雰囲気だからなと、余計なことを考えて、思わず笑った。
「ロイエンタール、朝だぞ」
もう一度揺り起すと、ロイエンタールはようやく目覚めたようだった。
「ああ、起きていたのか」
「今起きたところだ」
ロイエンタールの寝ぼけた表情を見てふわりと笑うと、オーベルシュタインはガウンを羽織ってタオルを手に取った。
「朝食の支度ができているはずだ。卿も身支度が整ったら、食堂へ来るが良い」
タオルの一枚をロイエンタールに差し出し、顔を洗いに行こうとして、はたと足を止めた。彼よりも少し背の高いロイエンタールの唇へ、優しく口づけてから、気を取り直して洗面室へと向かった。
「オーベルシュタイン」
顔を洗って戻ってくると、ロイエンタールはすでに軍服を着用していた。
「朝食を済ませたら、いったん俺は自宅へ戻る。着替えねばならんからな」
オーベルシュタインは頷くと、
「ならばついでに、着替えをいくつかここへ持ってきておくといい」
「……どういう意味だ?」
言外に、同棲するつもりはないぞと仄めかし、ロイエンタールは聞き返した。
「明後日には出征だろう。会えなくなる。もし、卿に何かがあったら……」
不安げな表情のオーベルシュタインを見て、いけないとは思いつつも吹き出さずにはいられなかった。何度目だろう、この男の意外な一面や表情に、苦笑やら失笑やらさせられたのは。
「わかった。出征の準備だけしたら、今夜もここへ来よう」
「明日も」
「ああ、明日もな」
オーベルシュタインはロイエンタールの胸に頭を預けると、力強く心地よいリズムで打ちつける鼓動に耳を傾けた。
「寂しくなる」
ぼそりと呟く。
「その言葉は、明後日の朝までとっておけ」
ロイエンタールが笑って言うと、オーベルシュタインも目を細めて微笑んだ。

(つづく)

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