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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」6.慈愛 (銀河英雄伝説 二次小説)

6.慈愛

 ロイエンタールはオーベルシュタインが無言で立ち去ったのを見て、改めて彼の言動を思い返した。彼が、俺を犯したがっていた?確かに彼の行動は、そのように言い表せるものであった。しかし今までのオーベルシュタインの態度とは、何かちぐはぐな印象を覚えた。そもそも彼の行動に違和感を覚えたのは、あの会議室での一件からだ。手を震わせて冷や汗を浮かべたあの前後に、何かあっただろうか。考えを巡らせると、あの会議の少し前、レストランで彼の顔を見た。向こうがこちらをじっと見ていたのは覚えている。あの時の視線は何だっただろう。……俺が女連れで歩いていたから、物珍しく見ていたのだろうと思ったのだが。まさか、女に嫉妬していたのか。
会議のあと、突然泣き出したのはどういう意味だったのだ。俺を犯したいという欲望と、泣き出すことの関連性が掴めない。俺は何を言いに行った。確か、体調管理をしろとか、医者に見せろとか忠告したような気がする。……考えようによっては、心配されたと、思ったのだろうか。まあ事実、多少は心配していたわけだが。心配されて泣く。情けなくて?不甲斐なくて?……違う。嬉しくて泣いたのだ。
では先ほどはどうだろう。直前まで実に穏やかに会話していたではないか。何が彼を暴挙に出させたのだ。……考えるまでもない、女だ。
ロイエンタールは苦笑した。

 覆水盆に返らず、か。
オーベルシュタインは公園を出て、あの店へと戻る道を歩いていた。無我夢中で飛び出してしまったが、まさか帝国元帥が無銭飲食をするわけにもいかない。そのあたりの冷静さが失われておらず、オーベルシュタインは自嘲気味に笑った。あんなことをしてしまったのに。いや、取り返しのつかない事態になったからこそ、彼への想いの呪縛から離れて、却って冷静になったのかもしれない。カッカッと速足で歩いていると、背後からも同様の軍靴の音が聞こえた。振り向きたくなくて、さらに足を早めた。足音だけで分かってしまうから。
「おい、オーベルシュタイン」
肩を掴まれ、渋々振り返った。
月明かりの下で見るロイエンタールは、つややかな髪が黒光りして、鋭い瞳が妖しく輝いて、いつもよりも魅力的だった。悲しいほどに。
「……。」
答えずにいると、ロイエンタールが溜め息まじりに言った。
「俺たちは、もう少し話し合った方が良いと思うのだが」
オーベルシュタインはかぶりを振った。
「先ほどは済まなかった、ロイエンタール元帥。勝手な願いだが、もう、私に構わないでいただきたい」
つとめて平静に、冷淡に。だがロイエンタールの次の言葉が、彼の脆く儚い平常心を打ち砕いた。
「しかし、卿は俺のことが好きなのだろう。犯したかったというのは、本意ではなかろう」
オーベルシュタインの顔が、ほんの僅かに歪んだ。また泣き出すのではないかとロイエンタールは身構えたが、彼はすり減った矜持を総動員して毅然と答えた。
「それを認めたところで、何かメリットがあるだろうか。私はもはや、何も求めていない」
乾ききった返答だった。
ロイエンタールは、不気味なほど何も湛えていないオーベルシュタインの顔を見て、口の端をほんの少し吊り上げて笑った。
「そうか。卿がそう言うなら、忘れてやろう」
ロイエンタールの言葉を聞いて、オーベルシュタインは再び背を向けて歩きだした。公平に照らすはずの月明かりが、なぜかロイエンタールには光を、オーベルシュタインには影を投げかけていた。

 忙しい日々はまさに疾風の如く過ぎ去り、いよいよ同盟領への大親征に進発する日が近づいた。一同が出征準備に浮足立つ中、オーベルシュタインは惑星フェザーン防衛司令部の長官に任ぜられ、ひとりフェザーンに残留することが決まっていた。その日の職務を終え、オーベルシュタインが帰り支度をしていると、面会者の来訪が告げられた。
「ロイエンタール元帥です」
約束はなかったが、まさか元帥を追い返すわけにもいかないと判断したのだろう。受け付けた部下がこちらへ通したと、一方的に知らせてきた。
「帰り際に失礼する」
自身も帰りがけであるようで、鞄を持ったまま入って来た。オーベルシュタインは人払いをしてから、いつぞやフェルナーと昼食をとった休憩室兼面会室にロイエンタールを促すと、ソファに身を沈めた。
「今更、私に何の用件だろうか」
嫉妬のあまり取り乱した彼とは思えぬほど、冷たい言葉が吐き出された。
「うむ。今度の出征は長くなるだろう。気になることを残しておけん性格でな。出征前に、ひとつ卿の誤解を解いておこうと思った」
ロイエンタールの言葉が予想できなかったのか、オーベルシュタインは驚いたように眉をぴくりと動かした。
「誤解とは」
ロイエンタールはにやりと笑って話し始めた。
「卿はあの時、ずいぶん絶望的な顔をしていたがな、俺はあのようなこと……無論、卿に押し倒されたことだが、あのようなことは日常あいさつ程度にしか思っておらん。俺の私生活を顧みれば容易に想像がつこうものだろう。だから卿がその件について後ろめたさを感じる必要はない」
オーベルシュタインの反応を伺う。鉄面皮の下で激情が動いているのが、手に取るようにわかった。
「それを私が知って、どうなると言うのだ」
オーベルシュタインはローテーブルの下で拳を握っていた。
「私が後ろめたさを感じずに、もし……もし、卿を好きだと言ったら、卿は私を愛してくれるのか。卿は私に抱かれるのか。無理だろう。私は男で、卿も男だ。卿は私など愛さぬ」
オーベルシュタインの直球に、ロイエンタールは思わず苦笑いを浮かべた。
「これも誤解しないでいただきたい。俺は男に抱かれるのも、男を抱くのも初めてというわけではない。軍隊にいれば珍しい事でもなかろう。まして俺は、すこぶる好奇心が強い。試してみないはずがない。……それと、俺が卿を愛するかどうかは、卿が決めることではなく、俺が決めることだろう」
オーベルシュタインが、信じられないという顔でロイエンタールを見つめていた。ロイエンタールはテーブルを跨いで向かいに座るオーベルシュタインの正面に屈んでみせると、念を押すように言った。
「それでもまだ、卿は心を閉ざすか、オーベルシュタイン。卿の思い切った行動も何もかも否定して、殻に閉じこもるのが楽でいいか」
ふるふると、オーベルシュタインは首を振った。そして、
「卿を、愛してもいいのか」
自信なさげに、ロイエンタールへ問いかける。
「それは卿が決めることだ」
ロイエンタールが答えると、オーベルシュタインは想い人の首に両腕を絡めて、逞しい胸に顔をうずめた。その変貌ぶりに、再びロイエンタールは苦笑した。
「まるで、やっと懐いた仔猫みたいだな」
ロイエンタールがそっとオーベルシュタインの髪を撫でる。言い得て妙だと、オーベルシュタインも思った。殺風景な面会室が、ひどく暖かく、幸せの香りを届けてくれるような気がした。

(つづく)

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