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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」10.黄金獅子への叛乱 (銀河英雄伝説 二次小説)

10.黄金獅子への叛乱

 イゼルローン要塞への侵攻、後に「回廊の戦い」と呼ばれるその戦いで戦死したアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトとカール・ロベルト・シュタインメッツは元帥に叙せられた。ヤン・ウェンリーとラインハルトの間に会見の場が用意されたが、その直前、ヤンが地球教徒に暗殺され、立ち消えとなる。稀代の名将を喪った悲しみは帝国軍にももたらされ、失意のうちに全軍を引き上げたラインハルトは、惑星フェザーンに帰投した。新領土総督の地位が確定したロイエンタールのみ、ハイネセンへの帰還となった。
7月、戦死した2名の元帥と、過日の爆弾テロで斃れたシルヴァーベルヒの国葬が、高級ホテル「バルトアンデルス」にて執り行われた。
オーベルシュタインの葬儀委員長ぶりを、この目で見たかったなと、ロイエンタールはひとり、人の悪い笑みを浮かべた。この時、水面下で錯綜するアドリアン・ルビンスキーとハイドリッヒ・ラングの陰謀に気付き得なかったことが、ロイエンタールの未来を左右する結果となったが、それを気付き得る唯一の人物は、オーベルシュタインだけだったと言えよう。
そして新帝国暦2年7月29日、新銀河帝国の首都がフェザーンへと遷都される。もともと大本営はフェザーンにあったが、その他の政府機関などの移転が、急速に進められていた。その中で、ひとりハイネセンにいるロイエンタールは、そういった国家情勢から取り残されたような感覚に陥りながらも、忙しい合間を縫って送られてくるオーベルシュタインからの手紙に励まされ、己の職務に精励していた。

 一方、新領土では、9月1日の「グエン・キム・ホア広場事件」を皮切りに、惑星ハイネセンでの暴動が多発していた。オーベルシュタインからは、暴動のことよりもその対処に追われているであろうロイエンタールへの気遣いを綴った手紙が、何通も届いていた。ホログラム映像と音声が再生されるメッセージカードには、彼の不安げな声色まで同封されている。そしてそれとは別に、重要さを示すパスワードのかかったメッセージが送られてきた。
『昨今、惑星フェザーンにおいて卿の噂が何者かによって流布されている。曰く、ロイエンタール元帥に謀反の兆しあり、というものだ。何でも、卿が皇帝(カイザー)をハイネセンに招請し、暗殺を企んでいる、といった内容がまことしやかに囁かれている。卿に限ってそのような陰湿な手段に出るはずがないことは、皆承知している。皇帝は卿を信頼され、行幸をご決定あそばされた。卿が陛下の御身の安全を保障してくれれば、何の問題もないことだ。卿に不快な思いをさせて申し訳ないが、黒幕の尻尾をつかむまで、私を信じてもう少し待っていてほしい』
沈痛な面持ちで、そして懇願するように、オーベルシュタインは口を結んだ。
確かに不快な内容だった。皇帝ラインハルトに直接決戦を挑むならともかく、暗殺を企てているなどと中傷されるのは甚だ心外である。オーベルシュタインの言うように、皇帝ラインハルトの航行中とハイネセンでの安全を確保するのが最善と言えよう。
「卿も苦労しているな」
ロイエンタールは無人の執務室で呟いた。オーベルシュタインのことだ。立場上、ロイエンタールを疑ってかかる発言をして、また皆に反感を抱かれていることだろう。それどころか、この春に出たエルフリーデの件も含めて、彼の手引きによってなされた陰謀だと非難されているかもしれない。彼の思いつめやすい性格と、演じ続けねばならない立場を知っているロイエンタールにすると、ひどく痛ましく思えた。
彼が傷つかぬよう、事態を収拾できれば良いが……。
オーベルシュタインの静かで穏やかな笑顔を思い浮かべながら、ロイエンタールは返信のメッセージをしたためた。

 ロイエンタール、オーベルシュタイン、そして他の諸将の思いや願望をよそに、事態は急速に、加速度的に悪化の一途をたどった。9月22日にフェザーンを出立した皇帝ラインハルトの一行は、予定より1日早い10月7日、航路途上にある惑星ウルヴァシーに到着した。この惑星において、先の大親征における戦没者の慰霊をして、再度ハイネセンへ向けて出立するというのが、その予定であった。しかしここで、誰もが予想し得なかった事態が起こったのである。惑星ウルヴァシーの基地全体が、ラインハルト一行の命を狙ったのであった。皇帝は随員ともにブリュンヒルトへ戻り、飛び立った総旗艦は「行方不明」となる。
ロイエンタールは手を尽くして皇帝の乗艦する総旗艦ブリュンヒルトの捜索に当たった。あずかり知らぬところで起きた事件とは言え、ウルヴァシーは新領土に属し、ロイエンタールには皇帝を守る義務があった。皇帝の無事を、ロイエンタールの手で確保することが、これ以上事態を悪化させないための唯一の手段だった。
しかし、続いて入ってきた報せに、ロイエンタールは打ちのめされた。
惑星ウルヴァシーにおいて、ルッツの戦死が確認されたのだ。

「ルッツが死んだ?」
ロイエンタールの声に罅(ひび)が入った。もはや誤解をとき過去を忘れて和解する可能性は失われた。ロイエンタールはそう思わざるを得なかった。軍事査閲監であるベルゲングリューン大将との会話を終えると、ロイエンタールはひとり、総督府の通信室に籠った。おそらく彼、オーベルシュタインから、何らかの知らせが入るだろう。彼は何を想い、どう行動しているだろうか。苦しんでいるだろうか……それとも、愚かな叛乱を起こした自分のことなど、とうに見限ってしまっただろうか。
唐突に着信を知らせるアラームが鳴り、ロイエンタールはメインスクリーンに映像を出した。
「オーベルシュタイン」
彼の予想した通り、オーベルシュタインはFTLを寄こした。そしてこれも予想通り、ひどく苦しそうな、今にも泣き出しそうな顔で。
「ロイエンタール……」
神の慈悲か悪魔の悪戯か、この日の通信は妙に鮮明で、ますます彼の青白い頬が儚げに映る。
「卿も聞いただろう。俺はローエングラム王朝における最初の叛逆者になったようだ」
ロイエンタールは自嘲を込めて、それでも冷然と言い放った。
「……ロイエンタール」
「俺は全知全能を尽くして戦う。俺が勝つか、あのお方が勝つか、楽しみにしていてくれ。卿がどちらにつこうとも、恨みはしない」
畳みかけるようなロイエンタールの口調に、オーベルシュタインは未来への扉が閉ざされる音を聞いた。
「やめてくれ、ロイエンタール。ラングを捕える準備を進めている。卿と陛下の間を阻む人間はいなくなる。今からでも遅くない、単身フェザーンへ戻り、陛下に頭を下げてくれ。私も、陛下を説得する」
ロイエンタールはかぶりを振った。
「もう遅い。ルッツを死なせた俺を、陛下は許されまいよ」
オーベルシュタインの蒼白な顔に、あの時のような涙がはらはらと落ちた。
「頼む、ロイエンタール。私が……私がそちらに行くから……卿のもとへ行くから。そして必ず、事態を収めるから……だから……」
俺のために泣くのか。ロイエンタールは若白髪の多いオーベルシュタインの長い髪に手を伸ばした。スクリーン越しに彼の頭を撫でてやると、画面の向こうからも同じように手が伸びてきて、ロイエンタールの掌と重なった。
「泣くな、オーベルシュタイン。笑ってくれ」
優しく諭すように、ロイエンタールは言った。
「……そんなこと、無理だ」
「最後に卿の笑顔を見たいんだ。碧い空のような、静謐な卿の笑顔を」
オーベルシュタインは収まらぬ涙を流し続けながら、それでも泣き笑いの顔をつくって見せた。ロイエンタールの求めた静謐な微笑には程遠いが、涙に濡れた彼の笑顔も、星空のようにきらきら光って美しかった。
「ありがとう。次に会うのは天上(ヴァルハラ)になりそうだ。叶うことなら、それが遠い未来であることを祈っている」
オーベルシュタインは星空の微笑を保ったまま、静かに頷いた。彼のためにロイエンタールも笑った。金銀妖瞳が珠玉のように輝き、その笑顔を最高の形に彩った。
「さようならだ、オーベルシュタイン」
スクリーンが闇に転じると、二人はそれぞれの場所で瞼を閉じ、互いに相手の顔をその瞼の裏に焼き付けた。
ロイエンタールは執務室に戻ると、鍵のかかった抽斗(ひきだし)から、これまでにオーベルシュタインから送られてきたメッセージカードをすべて取り出した。機密書類の処分に使用する焼却装置の中に、全てのカードを投げ込むと、数秒考えてから操作ボタンを押した。

(つづく)

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