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2013年3月24日 (日)

「酸いも甘いも……」12.めぐりあい (※最終章 銀河英雄伝説 二次小説)

12.めぐりあい

 「生き残りの地球教徒どもをおびき寄せ、ヴェルゼーデ仮皇宮にて射殺、または捕える。陛下のご病室の位置を彼らに教えてやり、集まったところを一網打尽にする」
そういった趣旨の命令を、軍務尚書オーベルシュタインは幕僚のフェルナーに伝えた。
「ですが、ご病室まで特定されるのは、却って危険ではありませんか。皇帝陛下に万一のことがあっては、本作戦の意味がなくなってしまいます」
部下の疑問にオーベルシュタインは薄く笑って答えた。
「もとより偽の情報でおびき寄せるのだ。ご病室についても偽のものを流す。当然、使用していない部屋を選ぶ。明かりがついて人影があれば、奴らは疑うまい」
そこまで聞いて、フェルナーはすべてを悟った。
「危険です、閣下。その人影に、閣下ご自身がなるとおっしゃられるのでしょう」
「そうだ。このような仕事、他にやりたがる者もおらぬだろうからな」
「軍務尚書閣下自らがなさることではありません!閣下が何とおっしゃられても、上官を危険にさらすことなどできません」
オーベルシュタインは名だたる義眼に冷たい光を湛えると、厳格な表情で部下に言った。
「フェルナー准将。私は卿に、子どものお願いをしているのではない。命令しているのだ」
フェルナーの瞳に、暗く濁った波のようなものが揺らいだ。
「……それでも、従うわけにはまいりません。閣下が犠牲になられるくらいなら、いっそ瀕死の陛下を犠牲にすればいいではないですか」
「たとえ陛下が瀕死であっても、その言葉は厳に慎むべきだ」
「不敬は承知です。小官は、閣下が無意味に死に急いでいるようにしか思えません」
折れることなく、突き刺すような目で、フェルナーはオーベルシュタインを射抜いた。その目は強烈な光を放っているようで、どこか深い闇を理解しているようでもあった。

……すまない、フェルナー。
私は今なら、喜んで死地へ赴ける。
日が沈み、影も消えるこの時なら。
彼もきっと、許してくれるから。

そう決心しても、なぜか胸に引っかかるものがあった。それはおそらく、今のフェルナーの目のせいだろうと、オーベルシュタインは思い当たった。FTLでロイエンタールと最後に話した時の、別れた時の、自分の目に良く似ているからだ。オーベルシュタインは部下を安心させるため、再度口を開いた。
「フェルナー、私は、死にたいなどと思ってはいない」
部下を下がらせると、オーベルシュタインはロイエンタールから届いたいくつもの手紙を取り出し、ひとつひとつデータを消去した。宛名と差出人の名だけが残された。軍務省の部下たちがその気になれば、容易く復元してしまうだろうが、不審死を遂げるのならともかく、明確な事象で死んでいくなら、誰もここまで調べることはないだろう。焼いてしまえば早いが、焼けるわけがない。彼とロイエンタールの間にあった、ただひとつの愛の証なのだから。
彼の死後、オーベルシュタインの執務室から、ロイエンタール元帥を差出人とした大量のメッセージカードが、フェルナーによって発見されるが、ことの顛末を推察したフェルナーにより、故人の名誉が尊重され、彼の遺体と共に埋葬された。


 オーベルシュタインは、自分の腹にあいた赤黒いクレーターを眺めていた。ヴェルゼーデ仮皇宮の一室でソファに重傷の身を横たえ、軍医の治療を受けていたが、緊急に軍病院での手術が必要であると言われて、あっさりとそれを拒否した。
「助からぬものを助けるふりをするのは、偽善であるだけでなく、技術と労力の浪費だ」
そう冷然と言って、周囲の人々を鼻白ませた後、彼は付け加えた。
「ラーベナルトに伝えてもらいたい。私の遺言状はデスクの三番目の抽斗(ひきだし)に入っているから、遺漏なく執行すること。それと、犬にはちゃんと鳥肉をやってくれ。もう先が長くないから好きなようにさせてやるように。それだけだ」
そう言い終えると、素っ気なく両目を閉ざして、人々の視線を遮断した。

ロイエンタール
ようやく……ようやく卿のもとへ行ける
卿のいない帝国(ここ)は無味乾燥で、すべてがなかったことのようだった
愛した記憶さえ空虚で、私は時の経つのを恐れた
だが、それも終わった
私も行くよ
……天上(ヴァルハラ)の恋は、どんな味がするのだろう

まだ、忘れていないだろうか
また、愛してくれるだろうか

「ああ、迎えに来てくれたのだな。
もう絶対に、離さないぞ」


新帝国暦3年7月26日、ロイエンタールの死去からわずか半年余りのち、パウル・フォン・オーベルシュタインもその生命を終えた。


(Ende)

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最後までお読み頂き、ありがとうございました。
元帥になってからのオーベルシュタインとロイエンタールって、
意外と接点がなかったというか、戦争やら新領土やらで、
遠方に離れていたんですね。

ラングをめぐるロイエンタールとオーベルシュタインの対立の印象が
とても強かったので、もっと始終言い争っていたのかと思っていましたが、
半年くらいしか顔を合わせていなかったようです。
それであの嫌われようとは……軍務尚書はさすがです(笑)

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