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2013年5月12日 (日)

Der Blaue Himmel ~青空~ (銀河英雄伝説 二次小説)

【注意!】

「フェルナーの前でだけ笑った(苦笑ですが!)」のなら、二人の間に何かしらの信頼関係があったのだろう、という解釈。
なので、原作で表現されていない部分で、二人がちょっと親しげにしてたらいいよ、という願望。
オベ閣下が魅力的で美しいといいよ、という願望。
でも、あくまで上司と部下の親しさであって、腐っちゃったら面白くないんだよ、というポリシー。
あくまで二人は腐ってないんです……

OKですか?

相変わらずのpixiv同時掲載です。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2337160

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Der Blaue Himmel ~青空~


 「医療部隊を近隣待機させろ!」
アントン・フェルナーの怒号が響く。ラグプール刑務所の状況は、今なお混沌としていた。一般刑事犯ではなく、政治犯が収容されている刑務所は、確かに危険思想の塊かもしれない。しかし、ここは政治犯といえどもトップクラス、旧自由惑星同盟において幹部級の軍人や政治家の囚人が多数で、比較的年配の者が多い。暴動が自然発生するとは思えなかった。

畜生、どういうことだ。

現場の混乱ぶりに、思わず舌打ちをする。壊滅したかに見えた地球教徒が、あるいはアドリアン・ルビンスキーの息のかかった者が、この大規模暴動に一枚噛んでいるのか。頭の隅でちらりと考えながらも、フェルナーは陣頭に立って暴動の鎮圧に乗り出した。
「フェルナー准将!黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェンレイター)が押し寄せてきます。門の前で吾が部隊と衝突寸前です!」
部下の一人が血相を変えてそう告げるのを、フェルナーは無視したい気持ちで聞いた。しかし、ことは無視して済むレベルではない。
「何やってるんだ。暴動を目の前に、味方同士で揉めてどうするんだ!」
すぐさまフェルナーは門前へと移動し、黒色槍騎兵の陸戦部隊を率いていたハルバーシュタット大将をつかまえた。軍務尚書の憲兵隊など無視して突入しろと言い立てるハルバーシュタットに、穏やかに語りかけたフェルナーの話術が功を奏したのか、どうにか協力体制を取ることに成功する。だが不幸なことに、黒色槍騎兵の司令官たるビッテンフェルト上級大将の拘禁は未だ解かれておらず、ハルバーシュタットを含めビッテンフェルトの部下たちに、自分たちの司令官を拘禁した軍務尚書の部下と、足並みを揃えようなどという意思は、初めから存在しなかった。
混成部隊は互いが功を競って予想外の戦果をもたらすこともあるが、この場合は不幸しか生まなかった。
「囚人を逃がすな。逃がすくらいなら射殺しろ」
どこから発生したか分からないその命令が、さらなる混乱とビームの応酬を呼び、気がつけば誰もがビーム・ライフルを構えていた。
「射殺とは短慮な!やつらは人質だぞ。殺しては意味がなくなる」
多数の政治犯を拘禁したのは、彼らの上官であるオーベルシュタインであった。オーベルシュタインはこの政治犯を、イゼルローン要塞開城の取引材料とするつもりでおり、必然的に生きたまま捕えておく必要があるのだ。そもそも、そのやり方が気に入らないビッテンフェルトの部下たちにとっては、人質の射殺など意に介さないのかもしれないが。

こんなことで揉めている場合ではないんだ。
こんな暴動ごときに、いつまでも時間を要していられない。
時が経つごとに混乱は増し、鎮圧も困難になるというのに。
……これじゃあ、あの人に合わせる顔がない。

フェルナーは焦りを覚えて、刑務所の奥へと駆け出した。
「准将!奥は危険です!!」
部下たちが呼び止めるのを背中に聞きながら、混乱を自分の手で収束させるために……
「うっ……!」
一閃のビームが、フェルナーの左肩を貫通した。動脈に近かったのか、たちまち生ぬるい血液が不快な泉を作る。周囲にいた憲兵が、放たれたビームの主へとライフルを構えた。
「待て、味方だ……」
コンクリートの冷たい床に伏しながら、フェルナーはそれだけ言うと固く目を閉ざした。

最悪だ。
俺が、こんなところで。
ああ、真っ暗だ……


 軍病院の病室で目を覚ましたフェルナーは、追い立てられるように続く検査の嵐に耐える数日と、その後の何の刺激もない苦痛に耐える数週間を過ごしていた。
病室の窓から見える空が、憎らしいほど青い。雲の流れが鮮明に見えて、ベッドにとどめられている自分が、世界のすべてから取り残されているような錯覚に囚われた。
「傷はどうですか、フェルナー准将」
軍服姿のまま、昼下がりに見舞いに訪れたのは、ナイトハルト・ミュラー上級大将だった。階級も立場も性格も違う彼らであったが、なぜか数年来の友誼がある。軍服を着ている時には、互いに提督、准将などと、形式ばった呼び方をするよう心がけているが。
「ずいぶん遅い見舞いじゃないですか。しかも、手ぶらで」
フェルナーは久々の客人に、嬉しさからの憎まれ口を叩いた。
「あはは、その元気があれば大丈夫のようですね」
ミュラーはただ見舞いに訪れたのではなく、先日発表された、ルビンスキー逮捕の知らせについてをフェルナーに尋ねに来たのだった。フェルナーは端的に説明してやると、ベッドサイドの椅子を勧めた。
「せっかくいらして下さったのに、自慢のコーヒーをお出しできずに申し訳ありません」
笑ったフェルナーの顔が、やや自嘲の要素を帯びているようだった。いつも自信満々で不敵な男が、珍しい表情をするものだと、ミュラーは妙に気にかかった。
「貴官の淹れるコーヒーも紅茶も、絶品ですからね。次の機会を楽しみにしていますよ」
ミュラーは曖昧に笑って言った。
次の機会。何気ないミュラーの言葉に、フェルナーはふと真顔になった。それはベッドの左側にある窓から、青い空を眺めている時の気分を、否が応にも思い出させたからである。
「次の機会なんて、あるのでしょうかね」
軍務省官房長のフェルナーに代わり、グスマン少将が官房長臨時代理に任命され、彼を中心にして軍務省は滞りなく機能していると聞く。軍務尚書オーベルシュタインに至っては、彼の負傷を耳にした直後に、執務室へ朝食を運ばせたという。
……心配して欲しいわけではない。ただ、これまでの彼は自分がオーベルシュタインを支える中心人物であると自負していたし、その立場を誰にも譲る気はなかった。
「軍務省に俺がいなくても、誰が不自由するわけではなし」
フェルナーの呟きに、ミュラーは眉をひそめながら首を振った。
「らしくないことを言いますね。確かに、気持ちは分かりますが。……私も、しばらく負傷療養していましたからね」
毎日毎日、面白くもない天井ばかりを見上げて、ケンプ司令官の死の責任を感じながら、復讐の炎に身をやつしながら。ミュラーは当時を思い出してか、やや険しい表情でそう語った。
「しかし、准将はひとつ勘違いしていますよ」
「勘違い?」
ミュラーは穏やかな顔で肯いた。
太陽が下がり始め、眩しい光が病室内に差し込む。ミュラーは立ち上がってベッドをぐるりと迂回すると、レース地のカーテンを閉めた。忌々しい青空がフェルナーの視界から消え、人知れず安堵の息を吐く。もしかするとミュラーも、同じ思いを抱いていたのではないだろうか。経験者だけが共有し得る、青空への独特の嫉妬。
「そう、勘違いですよ。グスマン少将は官房長臨時代理です。官房長の職務を臨時で代行するだけで、准将の代わりができるわけではない。軍務尚書も、はなからそんなものは望んでいないでしょう。元帥のことですから、いつもと変わらず仕事をされているでしょうが、貴官を予備役へ編入させて、グスマンの肩書から『臨時』を取るという選択をなさらないのですから、やはり貴官が戻るのを待っているのではないですか」
ミュラーの優しい声に、フェルナーはそれでも虚ろに肯いた。頭の中では納得できるのに、焦る気持ちが友人の温かい言葉を拒絶するのだ。窓の外が見えない代わりか、冷ややかなリノリウムの床が、そんな彼の心を嘲笑っているかのように見えた。
「まあ、当面は余計なことを考えずに、療養に専念することです。回復してくれば、変な焦りも霧散しますよ」
人の良い笑みを浮かべて、ミュラーは職務へと戻って行った。


 ミュラーが帰り、日が沈み、夕食を終えていた。動かないのだから腹も空かないが、食べるのも仕事のうちと、無理をして食べた。することもなく、痛み止めも服用していたから、まだ20時を過ぎたばかりというのに、うつらうつらとしていた。

軍務尚書が俺を待っている、か。
それだけを聞くと、何とも滑稽だな。
あの人は誰かに固執することなく、従順に正確に動く人間ならば誰でも良いという考えの持ち主だ。
近くにいる自分が、一番それを知っている。
俺だってそうだ。
自分の才能を生かして、使いこなしてくれる人間なら、誰が上司になったって……
俺を、使いこなす人間、か。
あの人のほかに、いるだろうか……?

取りとめのないことを考えるうちに、フェルナーは心地よい眠りの女神に導かれて、静かな寝息を立て始めた。だから、痺れた頭で認識した軍靴の音も、夢の中のことだと思った。
コツコツと律動的で迷いのない足音が、廊下をこちらへ向かって近づいてくる。フェルナーは重い瞼を閉じたまま、何となくその足音に耳を傾けていた。やがて、静かな電子音とともに病室の扉が開く。病室に入って来た何者かの気配は、驚くほど優しかった。目を開けてもいないのに、なぜかその人影の気遣いが温かく感じられた。……きっと、夢だからだろう。

すると、右の手首に、細い指が当てられた。
「……!?」
そこで、フェルナーはハッと目を開けた。どこまでが夢で、どこからが現実だったのか、彼には判然としない。
「痛むのか」
黒い人影から発せられた音声は、彼の聞き慣れた抑揚のないそれだった。
「閣下……?」
がばっと起き上がろうとして、青白い指だけで制止される。……いや、青白いというのは先入観だった。そもそも暗くて色など判別できない。解放された右腕で、フェルナーは枕元のライトのスイッチを入れた。2,3度しばたいて弱い光が室内を照らすと、彼の目の前には予想通りの人物がいた。
「脈が速い。まだ痛むのか」
感情のこもらぬ義眼で、オーベルシュタインは部下を見下ろしていた。フェルナーは唖然として言葉を失ったが、オーベルシュタインは急かすことなく彼の返答を待っていた。
「……もう、大丈夫です。それより……」
なぜ、こんな所へあなたが。そう聞きたいのを、フェルナーはこらえた。失態を詫びる方が先だ。しかし、上官はそんな彼の思いを見透かしたように言った。
「卿は、良い友人を持ったな」
フェルナーの動きを制したオーベルシュタインの指が、そのまま彼の胸の上に置かれた。
「すまなかった」
「……え?」
上官の唐突な謝罪に、フェルナーは狼狽した。詫びるのは自分の方であるはずなのに。
胸の上に置かれた手が、撫でるとも叩くとも言い難い動きをした。彼の体を気遣ってというより、それは持ち主自身の逡巡を表しているようだった。
「混成部隊の扱いづらさは承知していた。黒色槍騎兵が動き出すことも予想できた。ワーレンなりミュラーなりを指揮官に充て、彼らを統制すべきだったのに、麾下の憲兵隊のみで事態を解決しようと、私自身がつまらぬ意地を張ったのだ。……卿にかかる負担を分かっていながら」
上官の視線は常と変わらず冷たい。だがそれは、彼が望んで冷たくしている訳ではなく、無機物であるがゆえのものであることを、フェルナーは知っている。逡巡を示す手の動きは、未だ止まっていなかった。
「はは……そんなことを気にされていたのですか」
フェルナーは意識的に笑い飛ばした。部下が死のうが傷つこうが、眉ひとつ動かさないあなたが、何をいまさら。そう言いかけて、はたと考え淀んだ。この人はいつも、最小の犠牲で最大の戦果をもたらすことに、エネルギーのすべてを注いでいなかったか。流す血を少なく、矜持と誇りのためだけの無意味な戦いを避けて。
だからこそ、事態を収拾しえずに空回りして、多数の犠牲を生んだ自分の罪は大きいのだ。フェルナーが再び思考の闇に沈みかけていると、オーベルシュタインは彼の胸に乗せた手を引き戻して、探るような視線をこちらへ向けた。
「左肩か……。ならば、右手は使えるな」
「……?」
フェルナーがその言葉の意味を図りかねているうちに、オーベルシュタインは自分の鞄から書類ファイルを取り出すと、ベッドテーブルの上にそっと乗せた。
「正直なところ、卿にしか分からぬことが多すぎるのだ。復帰したら、まず部下を育てるのだな」
フェルナーは半身を起してテーブルを引き寄せると、そのファイルを開いた。中身はすべて、彼の指示で行われていた業務に関する報告書や起案書の類だった。
ミュラーから己の葛藤の一端を聞いた上官が、おそらく彼なりに考えて用意した、フェルナーへの見舞いなのだろう。書類の全てに、片手だけでも扱いやすいよう折り目がつけられていた。
胸の奥に沈んでいた大きなわだかまりが、音もなく溶けて消え去るのが分かった。ひどく、温かかった。

ああ、最高の手土産だ。

フェルナーは自然に笑った。たぶん、もう、青空に嫉妬することはないだろう。
「部下の育成、善処致します」
フェルナーの微笑を見てとって、オーベルシュタインはその目を細めながら静かに肯いた。明日から秘書官のシュルツを使いによこすから覚悟しておけと、そう言い置いて、冷徹無比な軍務尚書は病室から姿を消した。
上官の淡白な声は、廊下を遠ざかる足音を、いつまでも聞いていたい気分にさせた。


(Ende)

あとがきもどき

原作でもOVAでも、負傷以来フェードアウトしてしまったフェルナーさんを書きたくて、煩悩のままに書き殴ってしまいました。
そして、オーベルシュタインがお見舞いに行くという……。
誰得なストーリーなのか……。強いて言うなら、筆者得ですね。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。


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コメント

ゆいさん、こんばんは。リラです。

すてきなお話をありがとうございます。

たしかに原作ではフェルナーが負傷したあと、「フェルナーの負傷を聞いてもオーベルシュタインは平然と朝食を食べた」で片づけられてしまったので、おいおいそれで終わり?それなりに信頼してたっぽいのにあんまりなんじゃ…と思っておりました。

今回のお話は、不器用ながらもそれなりに部下を思いやる閣下の優しさが垣間見れてよかったです。
朝食も、「食べるのも仕事のうち」とわりきって食べたのならいいな~と妄想してみたり。
フェルナーに対し、「私も意地をはった」と告白する閣下が妙にかわいく見えました。

P.S ゼーアドラーの犬のランチョンマットかわいいですね。やっぱり閣下と犬は切り離せないエピソードですよね。実は「私の犬に見えるか」のくだりを読むまでは、閣下は苦手なキャラだったのですが、あれを読んで「この人、そんなに悪い人じゃないかも」と思い一気に感情移入するようになりました。

リラさん、こんばんは^-^

そうなんですよ~。入院加療の期間を過ぎても、一向に現れなかったフェルナーさんが不憫で(笑)。
原作ではそれほど多く書かれていませんでしたが、OVAだと閣下とフェルナーって、いつもセットで登場するのに、あまりの扱いですよね。
朝食を食べたのは、仕事のうちだし、仕事を効率よくこなすためだと思っています。いかにも閣下らしいですし。

「すまなかった」と「つまらぬ意地を張ったのだ」という発言を閣下にしてもらいたくて、今回の話を書いたと言っても過言ではないので、可愛いと言っていただけて嬉しいです♪

> ランチョンマット
可愛いですよね~。店主さんのセンスに脱帽ですよ。
犬エピソードは、一気に閣下を魅力的にしますよね。非人間的な彼が、妙に人間くさくて。そんな描写を、短くさりげなく入れられた田中先生は、やはり凄いなと思います。

ご感想ありがとうございました。

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