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2013年5月 3日 (金)

電文 (銀河英雄伝説 二次小説)

予告いたしました、オーベルシュタイン誕生日企画の二次小説です。

いつもどおり、pixiv同時掲載でございます。読みやすいほうでどうぞ。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2300232

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電文


 イゼルローン要塞を放棄したヤン・ウェンリーが、再度同盟首都ハイネセンより出立し、各地で帝国軍の艦隊を手玉に取るような行動を示し始めた2月末。刻一刻と届く報告に耳を傾けつつ、銀河帝国の臨時元帥府が置かれている惑星ウルヴァシーは、にわかに騒然としていた。無論、ヤン艦隊との正面決戦の時が近いのを、誰もが予想していたからである。さらに3月、ラインハルト・フォン・ローエングラムにから具体的な出兵の下命があると、漠然とした騒々しさが現実的な忙しさへと取って代わった。

「……以上のような運びになりました」
アントン・フェルナー准将は事務的な事項を上官であるパウル・フォン・オーベルシュタイン上級大将へ告げると、恭しく書類を手渡した。その奇妙に形式ばった態度が、常の不遜な彼の行いと乖離しているように見えて、オーベルシュタインは胡乱げな視線を送った。
「そんな顔をなさらないで下さいよ」
一見しただけでは何の感情もこもらぬ義眼の、その真意を正確に察知して、フェルナーは人の悪い笑みを浮かべた。
「私がどのような顔をしようと、卿にとやかく言われる筋合いはない。第一、特に含むところもない。もし何かを感じたのならば、それは卿の方に理由があるのだろう」
明らかに不審そうな眼で見ていたくせに、己の無表情に自信を持っているのか、オーベルシュタインは素知らぬ風を装っていた。フェルナーは真顔に戻って、殊更声をひそめて言った。
「初めてあなたの部下になった時は、何と考えの読めない上官だろうと思いましたがね。1ヶ月も傍にいてみると、これほど分かりやすい人も少ないと思うようになりました。何しろあなたの思考は、常に理路整然として論理的で、理に叶っていましたからね」
フェルナーはいったん言葉を切って、上官の削ぎ落とされたような顔を見やった。青白く必要最低限の肉しかつけていないその顔は、動かす必要性を感じないとでも言いたげであった。
「ですが、もう半年もしたころ、閣下がその冷静な顔の下で、色々な感情を動かしているのを知りましてね。人間、誰にでも癖というものはあるのです。閣下は今、私の態度を不審に思って、右手で顎に触れたのですよ」
再び自身の顎へと向かおうとしていた右手を、オーベルシュタインは押し留めるように下ろした。言われてみれば、そのような癖があるのかもしれない。人間は感情を顔だけで表現するわけではなく、特に不安や不信感、動揺といったものは、自己の体の一部に触れることで解消しようとする傾向がある。
いずれにせよ、この部下以外に自分の内心を推し量れる人物は存在しないだろうから、特に不都合を生じるわけでもない。そういう結論に至ったこと自体、彼がフェルナーに一定以上の信頼を寄せている証でもあるのだが、その検証はおくとして、オーベルシュタインは話の進展を促した。
「それで、本題は私の癖などではないはずだが」
微塵も動揺しない上官に対して、フェルナーも真顔を崩さぬまま用件を告げた。
「閣下はこたびの作戦でも、旗艦に搭乗されますね」
ラインハルトの参謀なのだから当然だと、オーベルシュタインはにべもなく答えた。
「小官の同乗もお許し頂けますか」
オーベルシュタインはまた己の右手が動き出そうとしたことに気付いて、その手の行く先を額へと変更した。僅かに額へ落ちかかった白髪まじりの前髪を払うと、静かに口を開く。
「元帥閣下からの明確な指示はないが、もとよりそのつもりだ」
これまでに類を見ない大規模な作戦であり、成功の暁にはそのままバーラト星系へと向かう可能性が高い。できたばかりの整備の整わない前線基地へ、手足となる腹心を置いて行くつもりはなかった。
「ありがとうございます。……長丁場になりそうなので、少々荷物が多いのですが……」
「部屋くらいは準備してある」
そういえばフェザーンを出立する際も、ずいぶん大荷物を抱えていたなと、オーベルシュタインは思い返していたが、フェルナーが意味もなく物を持ち込むとは思えなかったため、それ以上考える必要性を見出さなかった。
「話もまとまったことですし、コーヒーでも飲みませんか。お淹れしますよ」
ああ、と肯いて、オーベルシュタインは手元の書類の整理にかかった。両目をほんの少し細めていた。フェルナーはその様子を見やると、いそいそと給湯室へと向かった。彼の上官は嬉しい時や満足した時に目を細めるのだと、日頃の観察から結論を得ていたのである。


 宇宙暦799年、帝国暦490年4月。名だたる提督たちを各地の補給基地占領へと向かわせたラインハルトは、間もなくして自身の艦隊もガンダルヴァ星域より発進させた。バーミリオン星域会戦と呼ばれるこの戦いは、当初平凡な形で始まった。部下たちを各地へ散らし、本隊のみでヤン・ウェンリーの艦隊を迎えたラインハルトは、無論、明確な作戦を持っており、一方のヤン側にも目論見はあったが、互いに相手こそが奇策を用いてくると予測し、結果的に当たり障りのない砲撃を交わすことになったのだ。

 事態は数度目の急展開を迎え、ラインハルトを乗せた旗艦ブリュンヒルトは、まさに撃沈の危機に瀕していた。それは戦端が開かれてから12日目の、5月初頭のことである。自由惑星同盟軍の艦艇主砲は、ブリュンヒルトをその射程内に収めつつあった。間近の艦が大破し、旗艦が大きく揺れる。オーベルシュタインはラインハルトが身を委ねる指揮シートに左手をついて、なんとか転倒を免れた。しかし、今転倒を防いだところで、次の瞬間には命さえも宇宙の藻屑となっているかもしれぬ身である。心残りがないとは言い切れないが、己の身を惜しむつもりもなかった。今にも飛んでくるであろう無数の光線を覚悟したオーベルシュタインに、至急を知らせる通信士の声が耳に入った。
後にラインハルトはこの戦いの結果について、「譲られた勝利」と表現することで、不本意さを露わにした。早い段階でラインハルトの敗北を察したヒルダことヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの智謀により、帝国軍の双璧と謳われるミッターマイヤー上級大将とロイエンタール上級大将の両艦隊が、同盟首都ハイネセンの制圧に赴き、成功したのである。両提督の恫喝に近い交渉により、同盟政府の名の下にヤン艦隊へ停戦命令が発せられたのであった。

「同盟軍は前進をやめました。それだけではなく停戦を申し出ております」
オーベルシュタインは表情と声に甲冑を着せて、予想される主君の激情の発露に備えた。
「馬鹿げている。なぜ急にそんなことになるのだ!?あと一歩、いや、半歩で、奴らは勝っていたではないか!目前の勝利を放棄する正当な理由が何かあったのか」
この時ラインハルトは、柱の陰からフェルナー准将がこちらを覗き込んでいるのを目にするが、完全に無視している。
主君の感情の波立ちがおさまるのを待って、オーベルシュタインは事情を説明した。同盟軍からそれを伝えられた時、彼が完全な冷静を保ちえたかどうかについては語らなかった。
「情けない話だな。私は本来、自分のものではない勝利を譲ってもらったのか。まるで乞食のように……」
ラインハルトは笑った。彼にしては稀な、華麗さも生気もない、彫刻のような笑いであった。このプライドの高い主君が、堪えがたい屈辱に心を乱すのではないかと、一瞬心配げにオーベルシュタインはその義眼を若い覇者に向けたが、すぐに背後から声を掛けられて向き直った。
「何だ」
先ほどからこそこそと何かを嗅ぎまわっているような動きをしていた若い部下を、ほんの少し安堵したような顔で見つめる。12日間にわたって強いられてきた緊張が、近しい者の姿を目にした途端に緩むとは、吾ながら情けない。
「同盟首都のわが軍より、FTL(超光速通信)が入っております」
何かを探すように動き出した主君の姿を一瞥してから、オーベルシュタインは通信用スクリーンの前に立った。乱れた画像の向こうには、今回の功労者であるヒルダの美貌が認められた。
「元帥閣下にお取次を願います」
オーベルシュタインは肯くと、映像をメイン・スクリーンへ転送してラインハルトにその旨を伝えた。ラインハルトはなぜか、再び柱の陰に戻っていたフェルナーを捕まえて、何やら問い詰めている様子だった。気にかかっていることがあるらしく、なかなか戻ろうとしない主君を強引に指揮シートへ戻す。
この非常時に、それも先ほどまで激情に駆られていたはずなのに、一体何だというのだろう。若い主君の思考過程は想像の及ぶものではなく、オーベルシュタインは内心で首をかしげた。ましてや、そんなオーベルシュタインを主君が可笑しそうに見ているのである。気でも触れたのかと、先ほどの不安が頭をもたげたが、そのような様子ではない。
ともあれオーベルシュタインは、疲労の極みにあるであろう主君に食事を摂ってもらうべく、従卒の少年を探して下がっていった。

 画面の向こうにラインハルトの姿を認めると、ヒルダは一礼して口を開いた。
「差し出た真似をいたしました」
優秀な秘書官の控えめな発言に、ラインハルトはかぶりを振った。
「フロイラインあっての勝利だ。あなたの智謀は一個艦隊の武力に勝る」
ヒルダは詳細を説明し、ラインハルトから今後の処遇の方向性を聞きとった。ひととおり用件が済むと、ラインハルトがそれまでの表情と打って変わって、いたずらっぽい視線をヒルダに向けた。
「ところでフロイライン。先ほどから総参謀長の部下が、何やらおかしな動きをしているのだが、心当たりはないだろうか?」
客観的に見ればラインハルト自身もおかしな動きをしていたが、無論、ヒルダの把握するところではない。総参謀長と聞いて、もしや不埒な企みでもあるのではないかと危惧したが、ラインハルトの表情から見て、その線を一応は却下した。全面的にでないところが、ヒルダの慎重さを物語っている。
オーベルシュタインと事後処理の打ち合わせをするようにとラインハルトは言い残して、再び映像を総参謀長のスクリーンへと転送した。画面が転じても、オーベルシュタインの姿はない。ヒルダは手元のコンピュータを開くと、個人情報を呼び出した。総参謀長が近頃着手している計画、果ては勤怠状況などを調べるためである。これといって気にかかる情報はないが、あの男のことであるから、内密に進めている事項のひとつやふたつは存在するだろう。ヒルダは用心深くデータを見つめながら、次の情報へと移った。
「え……」
彼女の目を引いたのは、職務に係ることとは外れた、どちらかといえば経歴や個人データの部類に属するものだった。ヒルダは慌てて、パソコン端末が示す現在日時を確認する。
「5月5日……まさか、そんなこと」
今日この日は、古代地球に存在したとある国家において端午の節句と言われて親しまれた日であり、オーベルシュタイン総参謀長の誕生日であった。
「元帥閣下は、このことを知っていらして……」
先ほどのラインハルトの様子からして、おそらくある程度のことを承知していたのであろう。そして同時に、ヒルダが総参謀長に対して、好意的でない感情を持っていることも見通していたに違いない。それでいて、こうして彼女とオーベルシュタインが話をせねばならない状況を作ったのだ。
「お人の悪いお方だわ」
無意識に呟いて、はてと考え始める。これから顔を合わせるオーベルシュタイン上級大将に対して、何か配慮すべきことがあるだろうか。祝辞でも述べるべきか。無論、普段のヒルダであれば、そのような馬鹿げたことを考えたりはしない。何しろ勤務中で、それも前線にいるのである。プライベート上の付き合いもないヒルダが、あのオーベルシュタインの誕生日を祝う必要性など初めから存在しないのだ。普通ならば、である。しかし今回は、少しばかり事情が異なる。ラインハルトが何を期待しているのか、おおよそ察することができるからであった。それに……。
「あの総参謀長は、誰かに誕生日を祝われることなんてあるのかしら」
配偶者どころか親兄弟もいない。女性との浮いた噂もなく、親しい友人がいるという話も聞かない。彼を慕う者の存在はあらゆる方向から否定され、あの男が祝われたりプレゼントをもらったりしている姿も一向に想像できなかった。だからといって、もういい歳でもあるので不憫には思わないが、あのような為人(ひととなり)が形成された背景に不遇な人間関係があるのだとしたら、同情の余地がないとは言い切れないだろう。もっとも、このようなヒルダの想像を本人が聞けば、迷惑がるに違いないのだが。
考えあぐねていた彼女の前に、当のオーベルシュタインが姿を現し、ヒルダはそっと端末を閉じた。


 あと数分もすれば日付が変わろうという深夜、オーベルシュタインはブリュンヒルト内に設けられた私室に、ようやく足を踏み入れた。すぐにでも睡眠欲を解消したい衝動に駆られたが、翌日に控えたヤン・ウェンリーとローエングラム公との会談、そして近いうちに交わされるであろう自由惑星同盟との和約。これらの準備のため、机上には数多の書類が広げられている。中途半端に解けてしまった緊張が疲労感を増幅させ、オーベルシュタインは深い溜め息をついた。デスクの前で書類を眺めていると、ノックの音に続いて総参謀長閣下あての電文ですと、下士官が紙片を持参した。

差出人の名は、ローエングラム元帥の秘書官となっている。機械の目でその電文を読み取ると、オーベルシュタインは薄く笑った。

”お誕生日おめでとうございます。
  元帥閣下に、冗談の分からぬ女だと思われたくありませんでしたので”

彼女からの電文が、ラインハルトの不可解な行動の理由を明らかにした。ほころばせた口元をそのままに、オーベルシュタインはその紙片を持って簡易ソファの方へと歩み寄った。

「わざわざ暗号化することもあるまいに、素直でないお嬢さんだ」

フェルナーを通して部下たちから届いた大量のプレゼントの脇に、その紙片をそっと添える。
エア・コンディショニングの風に飛ばされないよう、重りを置くことも忘れなかった。

オーベルシュタインは、無機的な光を放つ義眼を静かに細めて、その光景を眺めた。


(Ende)


~ちょっとあとがき~
都合によりフライングのオベ誕祝いです。

かなり昔に書いた、同タイトルの駄文を、大幅修正&加筆した結果、更なる駄文に仕上がりました。

ヒルダのツンデレを書きたかっただけ……というのが本心だったり。

そして、部下たちに愛されているオーベルシュタイン。
それを人知れず、フェルナーにしか読み取れない表情で喜んでいたらいいよ、という願望です。

お読みいただき、ありがとうございました。

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コメント

ゆいさん、こんばんは。リラです。

今回は、オーベルシュタインの無表情の下の感情が垣間見れて楽しかったです。

当然のごとくフェルナーをいっしょに連れて行く気満々だったり、フェルナーの顔見て安心したりするあたり、なんだかフェルナーが閣下の世話女房と化してきている気がしました。
閣下のポーカーフェイスもフェルナーには通用しませんし。

そういえば、閣下はバーミリオンのときはとくにこれといった献策はしていないんですよね。
ラインハルトの負けを見越して、ハイネセン攻撃なんて作戦は閣下が好みそうな作戦だと思うのですが、実際やったのはヒルダですし。
まあ、閣下がこんなことをしたら完全に越権行為ですから、ラインハルトは「余計なことをするな!」と激怒したような気がしますが。

山のようなプレゼントをもらう閣下、いいですね。フェルナー、ご苦労様です!
ほかの提督たちには、閣下の苦労が理解されないので、せめて部下にはわかっていてもらえるといいですよね。

リラさん、こんばんは^-^

いつもありがとうございます。

>フェルナーの世話女房化
ははは(笑)。その通りというか、私の煩悩が暴走した結果です。
官房長(この当時は違いますが)とは、トップの女房役と言われますので、ある意味間違っていないのかも(笑)

>バーミリオンでの閣下
そうなんですよね~。確か、事前に同様の献策をしていたような気がしますが、ラインハルトに却下されていたような。
最前線に出てしまってからは、ヒルダと同様の策を用いたくても、出払った味方艦隊との連絡も取れず(傍受されるので)、その場でできることに専念するしかなかったのかもしれません。
そしておっしゃるとおり、ラインハルトに怒られるでしょうね。

あやうく誕生日と命日が同じ日になりかけた閣下に、プロージット。

ちなみに次回作では、フェルナー(女房役)とオーベルシュタイン(つつかれ役)の立場が、珍しく入れ替わります。

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