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2013年5月25日 (土)

口は災いのもと~冗談は厳禁~ (銀河英雄伝説 二次小説)

ミュラー(むしろフェルナー)粛清の危機。フェルナーがオーベルシュタインをからかうという、どうしようもないギャグです。

いつも通り、pixiv同時掲載です。読みやすい方でどうぞ。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2382103

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口は災いのもと~冗談は厳禁~


「閣下」
軍務尚書執務室に、不遜で癖のある銀髪の部下が、何やら訳の分らぬ極上の笑みを浮かべて入室して来た。執務室の主であるパウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は、無視を決め込みたい気分を隠そうともせず、その悪戯好きな青年の呼び掛けに、睨みつけるという技法だけで応じた。
銀髪の部下……アントン・フェルナー准将は微塵も臆した様子なく、しかし表情だけは引き締めて敬礼を施した。重要な報告をするぞという、彼流の合図である。その仕草を見てとって、オーベルシュタインもフェルナーの発言を許した。もっとも、ものの数秒で後悔することになるのだが。
「閣下が犬を拾われたという情報を、軍部内で流した人物が判明いたしました」
くだらぬことをと、口に出さなかったのは、別に部下への配慮ではない。二の句が継げなかったという類の理由であった。
「……調査命令を出した覚えはないが」
ひとつ吐息を洩らして、オーベルシュタインはようやくそう切り返した。
「承知しております。無論、小官の私的な時間を使って調査しました」
「余計なことだ」
もう黙れと言わんばかりに、義眼の上官は右手で追い払う仕草をした。しかし、この部下がそうやすやすと引き下がらないこともまた、どこかで認識していた。
「まあまあ、せっかく調べたんですから、聞いて下さいよ」
案の定の妥協しない言葉に、オーベルシュタインは二度目の溜め息を吐く。あくまで真剣な表情で、脇に抱えていた報告書を左手に持ちかえる姿は、日頃の有能で無駄のない部下の様子と変わらない。オーベルシュタインには彼の意図が全く予想できなかった。
「手短に」
手元の書類にサインをしながら、オーベルシュタインは報告を聞き流すことにした。フェルナーは目だけで肯いて、報告を始めた。
「ミュラー提督が僚友たちとの雑談で漏らしたとのことです。複数の証言がありますので、間違いないかと」
証言者や証言の数、フェルナーの報告はぬかりなく付け入る隙もない。おそらく報告内容もさることながら、彼自身が調査したという発言自体も、嘘ではないのだろう。……ますます、その意味が分からないのだが。
「ふむ。それが判明して、卿の気は済んだのか」
視線を書類に向けたまま、軍務尚書は極めて冷淡にそう言った。
「いえ、ますます疑惑が深まりました」
「……。」
思わず沈黙してしまった上官に、フェルナーは畳みかけるように言葉をつなぐ。
「続きがあるんですよ、閣下。ミュラー提督はその時、こうも言っていたそうです。その犬は、拾われた身のくせに殊勝さがなく、柔らかく煮た鳥肉しか食さないらしい。軍務尚書が深夜に肉屋へ買いに行く、と」
なぜかニヤリと笑うフェルナーにも、オーベルシュタインは顔を上げず、
「別に隠すことでもないし、概ね事実だ」
と、にべもなく答える。
「……事実、ですか」
しかし、何か含みを覚える部下の声色に、無意識のうちに眉根を寄せていた。
「それが何か」
やや興味を示しかけている上官の問いに、フェルナーはひとつ深呼吸をして、ことさら勿体ぶって口を開いた。
「閣下が肉屋で買い物するところを、ミュラー提督は目撃したのかもしれません。ですが、閣下のご愛犬が『柔らかく煮た鳥肉しか食さない』ということを、どうしてご存知なのでしょうね」
「……。」
義眼の軍務尚書が、初めて顔を上げる。
「気になりませんか」
「……。」
その冷たい瞳は、問い質すように部下へと向けられていた。フェルナーはしてやったりという表情で、次の言葉を紡ごうと口を開ける。しかし、それは予想外の上官の言葉で制止された。
「憲兵総監に連絡を取れ」
「……は?」
「ケスラーに連絡しろ。ミュラー上級大将をストーカー規制法違反で参考人聴取する。卿は我が私邸に盗聴器の類が仕掛けられておらぬか調査してくれ。場合によっては、彼を社会的に抹殺できる準備を整えておくこと」
淡々と、しかし確実に本気の指示が飛び、フェルナーは冷静さとか優雅さとかをかなぐり捨てた。
「え!?……はっ、いや、閣下、落ち着いて下さい!!」
焦って声を荒げる部下に対して、かけらもペースを乱さないオーベルシュタインは、神経の図太いフェルナーでさえ寒気を覚えずにはいられない絶対零度の声で、命令の意図を説明した。
「私は落ち着いている。冷静に状況を分析すれば、ミュラー提督が何らかの方法で私の私生活を監視していることになる。住居不法侵入を看過するわけにはゆかぬ。あまつさえ上級大将が帝国元帥の住居を監視など、帝国の恥だ。社会的に抹殺されても文句は言えまい」
「え、は、はい、いやでも、実は……」
フェルナーがしどろもどろに口ごもっているうちに、オーベルシュタインは手元の端末から憲兵隊本部へ発信していた。
「ケスラーか。ミュラー上級大将を今すぐ拘禁してくれ。鳥肉の問題だ、いや、犬の問題なのだ」
その発言内容から、冷静な表情の下で軍務尚書も相当動揺しているのが分かるのだが、もはやそこまで察する余裕がフェルナーにはない。止める者もなく、TV電話(ヴィジホン)越しの混乱した問答はさらに続く。
「……何?少し休めだと?私は疲れてなどいない。とにかくミュラーを……ふむ、わかった。……何だと?」
オーベルシュタインがちらりと部下を一瞥する。
「ミュラーに話していた人物がいた?事実なのか。……うむ、そうか」
もう一度部下の姿に目をやると、オーベルシュタインは確信したように肯いた。
「その人物には心当たりがある」
最後の言葉は、ケスラーともう一人の人間に向けられていた。
オーベルシュタインは手にしていた万年筆を、足音を殺してドアへと急ぐ部下の背中へ、正確なコントロールで投げつけた。

常に冷静で激する姿を見せない軍務尚書の、火山の噴火を思わせる怒号を、ケスラーは端末越しに聞いたという。

(Ende)


~あとがきもどき~

ミュラーはどうして、「柔らかく煮た鳥肉」のことまで知っていたんでしょうね?という疑問から生まれた、どうしようもない話でした。色々ごめんなさい。
ご読了ありがとうございました。

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コメント

ゆいさん、こんばんは。

リラです。今回はギャグでしたね。面白かったです。

鶏肉問題で粛清とか嫌すぎる~。銀河帝国笑史とかに確実にのりそうです。

でもフェルナーが鶏肉のこと知ってたってことは、閣下はフェルナーには鶏肉のこと、自分でしゃべったんですね。

冒頭でもフェルナーが重大な報告をするときの合図とか無言で読み取ってるし、なにげに阿吽の呼吸を見せてますよね。

もし閣下がミュラー抹殺命令を出さなかったら、フェルナーが何を言うつもりだったのか気になります。閣下は根が真面目だから、冗談が冗談にならないときもあるのですね。

リラさん、こんにちは。

ギャグセンスないので、何だか最後はいまいち笑えない展開になってしまいました(笑)

鶏肉のこと、フェルナーに話していたかどうかは定かではないですが、多分、「こいつに知られるのは仕方ない」みたいな諦めが、閣下にはあったのかもしれません。

フェルナーさんは実は、軍務省調査局長でもあるので、愛犬の餌に至るまで独自に調査していたかもしれませんね。

> 阿吽の呼吸
そうだったらいいのにな♪という、私の願望ですね!

> もし閣下がミュラー抹殺命令を出さなかったら
大いにミュラーも巻き込んで、一人で閣下とミュラーの二人をからかい倒した後、しれっと仕事に戻るか……
あるいは、「閣下のお宅でミュラー提督を待ち伏せましょう」とか言って、これ幸いと閣下のお宅訪問を楽しんだかもしれません^-^;

冗談の通じない閣下を、ヤン艦隊の中に放り込んでみたい衝動に駆られます(苦笑)カルチャーショックで倒れるんじゃないでしょうか。

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