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2013年6月29日 (土)

夢、見果てたり (銀河英雄伝説 二次小説)

もう、このブログ、二次創作ブログになってますよね。
今回は、いつもと違う文体で書いてみました。用いる漢字もあえて変えています。読みにくい!?……ごめんなさい。オーベルシュタインの死は、計算の上での殉死か?色々妄想しました。
いつも通り、pixiv同時掲載です。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2511269

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夢、見果てたり


光には影が従う
光が翳れば、影もまた……

 銀河帝国稀代の名君が、病の床に伏して幾日が経とうか。「変異性劇症膠原病」という奇病の名を突きつけられた歴戦の勇者たちの困惑、落胆、そして怒りは、日々その色を濃くしていた。皇帝(カイザー)の側近である二名の元帥にしても、表立って激昂する様子を見せなかったものの、内心はどの提督たちよりも波立っていた。何しろ、皇帝は為政者である前に全軍の力強い指揮官であったのだから、その存在を失おうという今、彼らはその穴に急ごしらえのコルクを嵌め込まねばならないのだ。実質的なものはもちろん、多数の将兵、臣民の精神的な空洞にも。

 嗚呼、しかし民たちは、やがて代わりとなる者を受け入れるだろう。
 美しく才智溢れる皇妃(カイザーリン)が、その精神(こころ)を掌握するに違いない。
 軍中枢は若く優秀な司令官が、政治中枢は類稀なる政治的センスを持つ皇妃が、ほどなく混乱を収めるだろう。

 ならば、私自身の精神(こころ)は、何によって埋められるだろうか。
 主君となるは唯一人と、まばゆく輝く黄金獅子(ゴールデン・ルーヴェ)に、総てを捧げんと歩んできた私の精神(こころ)は。
 埋めようのない欠落を、私は甘受せねばならぬのか。

 度を過ぎた形式のように思える書類の束を部下に手渡し、万年筆をペンスタンドへ戻すと、顎の下で両手を組んだ。頭部の重量をその両手へ預けると、白髪まじりの前髪がはらりと落ちかかる。書類を受け取った部下が物言いたげにこちらを見ていたが、半眼の両瞼を閉ざすことで、その存在を拒絶した。
部下の退室を待って、元帥服を纏ったその男も、消え入りそうな足音と共に執務室を出た。彼の頭脳に閃いた或る計画の裁可を、唯一の主君へと仰ぐために。


 「人払いを」
灰色の軍用ケープを翻して訪れた男の急な申し出に、侍医たちは狼狽の色を隠さなかった。皇妃と大公妃は次代の皇帝を腕に抱き、静かに病室を去った。寝台に横たわる全宇宙で最も美しい患者の意向を、医師は無言のまま視線だけで求めた。黄金の髪に白磁の肌を持つ専制君主は、低からぬ発熱によってその白い頬を朱に染めながら、「心配は無用だ」と、侍医たちを隣室へ退けた。
「いてもいなくても、予の寿命に差異はなかろう」
忌々しげに、しかしどこか諦念の相を感じさせる表情で呟く。その様が、招かれざる客人の胸を激しく叩いた。寝台の頭部を僅かに上昇させて、誇り高い皇帝は、自身より遥かに顔色の悪い臣下を傍らへ呼び寄せた。
機械の目を持つ臣下は、死の床にありながら尚その美を留める主君へ、最敬礼を施した。そこまでは常の彼らしく、無機的で熱のない仕草であったが、その流れのまま長身のその男は、片膝を折って寝台の脇に跪いた。
主君の氷蒼色(アイスブルー)の瞳が、大きく見開かれる。
「卿らしくなく、殊勝な態度ではないか」
皮肉られた元帥は、しかし頭(こうべ)を垂れたままであった。
「この期に及んで、まだ予に言いたいことでもあるのか」
死にゆく自分にではなく、将来(さき)を担う存在に言えと吐き捨てる皇帝を、両の義眼は何の色も示さずに見上げる。だが、漸く上向いたその貌が、微かに歪んで見えたのは気のせいではないだろう。黄金獅子の鬣(たてがみ)を仰ぎ見たままの元帥は、色の薄い唇を小さく動かした。
「陛下は、500年続いた旧王朝の悪しき伝統を打ち砕き、見事に新しい時代を、新しい宇宙をお創りになりました」
相も変わらず淡々とした声で、義眼の男は言葉を紡ぐ。予の墓碑銘でも読み上げているのかと、またも皮肉を投げたい衝動に駆られながら、皇帝は臣下の言に耳を傾けた。
如何なる時であっても、この男の言葉に心地良さを感じることはない。しかし、如何なる時であっても、聞かねばならぬ言葉(もの)であった。反論の余地のない正論を武器とするのが、この男のやり方であるからだ。だからこの時も、何かに誘導されていると知りつつも、耳を傾けずにはいられなかった。
「私は陛下の才能と器量を信じ、私自身の望みをも託してお仕えしてきたつもりです。そして……私の望みは陛下の御手により叶えられました」
言葉とは裏腹に、その貌には苦痛の色が広がっていた。皇帝は全身の倦怠感に耐えながらも、眉根を寄せて疑惑を体現した。
「そうか、望みは叶ったのか。であれば、何ゆえ、卿は苦痛に顔を歪めているのだ」
それは尤もな疑問であり、義眼の男にも予想し得る質問であった。
 ――否、予想ではない。期待する質問であった。
「光には影が従うと、申し上げたことを覚えておいででしょうか」
そんなこともあったかと、皇帝は小さく嗤った。無論、覚えていないわけではなかった。
「陛下は、私が闇の中で見ることのできた、唯一つの光なのです。故に、私は陛下の影として生きることを自身に誓いました」
跪き、熱のない両目で見上げるその姿勢を崩すことなく、臣下として最高位にある男は、これまで口にしたことのない想いを吐露した。それが何の為であるのか、理解しているのはこの男自身だけであった。
「ほお、聞いたこともなかったが」
義眼の元帥は僅かに頷いた。その拍子に、彼の印象からは乖離した柔らかな頭髪が一本、立てた膝の上に落ちる。
 ――嗚呼、自分もこの髪のように、堕ちてしまえれば良いのに。
「自ら語るべきことではないと、戒めておりました」
そう答えた声は、辛うじて震えていなかった。
何かを吐露しながら、同時に何かを抑え込むような男の言葉に、主君がやや好奇の目を向ける。
「その高潔なる矜持を、今ここで捨てた理由については、なかなか興味深いな」
主君の問いに、男は暫時瞼を閉じてから、いつになく過重労働を強いられている自身の唇を再び動かした。
 ――あと少し。総てを絶ち、事を終えるために。
「光のない世界に、影は存在し得ません。影は常に、光と共に終焉を迎えるべきものです」
彼らしい露骨な比喩表現であった。迫りつつあると誰もが認識していることであっても、皇帝の死を避けることなく口にするこの男は、やはり言葉を武器にする冷徹無比な存在であった。
だが明哲な話し相手は、そのような上辺の表現に欺かれることなく、その男の真意を悟り得るのだ。
 ――そう、この主君なら。身命を賭した一世一代の大舞台を、その意味を、理解するであろう。
主君から紡ぎ出された次の言葉が、それを決定づけた。
「卿はもう、満足だと言うのだな」
問いではなく確認でもなく、言うなれば、共感であった。大舞台に挑もうという男は、跪いたまま一礼した。その動きには、やはり内面や情緒といったものが一切反映されておらず、ある種の機能美を感じさせた。
「あらゆる後顧の憂いを、影が連れ去りましょう」
機械の瞳の中に、宇宙一の彫刻が棲んでいた。彫刻の瞳の中にもまた、機械仕掛けの半眼があった。無機物と有機物の二対が、この場に必要な総てを語っていた。
 ――やはり、この光がまた、私を孤独から解き放つのだ。

寝台の上から、跪く臣下に向かって、最高級の象牙細工を思わせる美しい手が差し伸べられた。

「予と、共に来るか」

主語も目的語も不要であった。皇帝には分かっていた。自分が躯(むくろ)となった後、目の前の男が如何様に遇され、消えていく運命にあるか。そうした生を強要されることが、どれほどこの男を苦痛のどん底に落とすのかを。なぜなら皇帝自身が、そのどん底から彼を引き上げたからである。

差し出された高貴な手に、青白い貧相な右手が寄り添う。その手は触れ合うかに見えて、しかし、青白い一方の手が空を掻いて落ちた。

「陛下のお傍に、私はもう必要ありますまい」
暗く深い穴の底を思わせる低い声が、確かに否(ノイン)と告げる。
「影は影らしく、犯した罪に相応しい地獄(ヘレ)の業火に焼かれましょう」

光は沈み、影は消える。
宇宙最大の為政者であり、この男にとっての光は、音もなく嗤った。嗤った様相のまま、こちらも低く答える。

「卿の思うように、事を成すが良い」

その言葉は、果たして死後の選択を指したものであったか。それとも、残り僅かな生前の所業であるのか。

どちらの含蓄も理解した男は、これまでにないほど深く頭を下げた。伏せられたその貌に何を宿していたかは、定かではなかった。
 ――裁可は下った。あとは、時を待つばかりだ。


 「軍務尚書が見えぬようだが、あの男は何処にいる」
病室に集められた臣下たちを一瞥して、命数を使い果たそうとしている黄金獅子は呟いた。果断速攻に定評のある部下たちが、一様に表情を曇らせ、更に皇妃から、やむを得ぬ理由で座を外していると告げられると、獅子は小さく嗤った。

気の早い男だ、と。

「そうか。あの男のやることは、何時も尤もな理由があるのだったな」

光と影は唯の一度も溶け合うことなく、別離の時を迎えた。


(Ende)

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コメント

ゆいさん、こんばんは。今回は前作と一変してシリアスな閣下でしたね。

オーベルシュタインの死は、やはり殉死であってほしいと願っています。

彼にとってラインハルトとは、尊敬できる主君であると同時にあこがれの対象でもあったのではないかと思います。

陰気で口下手で他人とうまく付き合うのが苦手で顔色の悪い自分と違って、輝くばかりに美しく力強く、他者をひきつけてやまないラインハルトは、彼の目にはさぞやまぶしく映ったことでしょう。

彼がラインハルトの部下になった理由は、主君としての資質がどうこうというよりも、極言すれば「ラインハルトが好きだったから」(性的な意味ではなく)なのではないでしょうか。

ゆいさんの話では、閣下は最後の最後にラインハルトに自身の心情の一端を伝えられてよかったと思います。ラインハルトに何も知られないまま、一人でヴァルハラへというのでは哀しすぎます。
閣下はフェルナーとはそれなりに信頼関係を構築していたのだと思いますが、それでもフェルナーはフェルナーであって、ラインハルトの代わりにはなりません。

そんなわけで、閣下はたとえ死ななかったとしても、退役していたような気がします。皇帝をおとりにつかった責任をとるとか、色々理由は考えられるわけで。そもそも、カイザーリンおよび国務尚書と不仲なわけですから、かなり苦しい立場に立たされるでしょうし。オーディンに引きこもって隠遁生活…という場面しか思い浮かびません。
彼は、そんな生活をするくらいなら、やはり最後までラインハルトと共に、と願う気がします。

リラさん、こんばんは。

そうですね。何もかもが正反対の二人。オーベルシュタインは、もちろんラインハルトの器量や才能を見抜いていたのだとは思いますが、何より魅力ある主君だと思っていたのではないでしょうか。

実はこの話、貴水博之が歌う「Eternal Sky」(舞台オーベルシュタイン篇のテーマソング)の歌詞の一節から広げていった話でして、その歌詞がですね…

「まぶしい光が 孤独から解き放つ 銀河の果てにある 夜明けを探して生きる」

というものなのです。勝手な解釈ですが、「まぶしい光」とはラインハルトで、オーベルシュタインは彼によって、生まれてからずっと存在そのものを否定されてきた究極の孤独から解放され、自分の存在価値みたいなものを見出し得たのではないかと。

他の諸提督がたは、これまでの社会体制下であっても、それなりの人生を歩んでいたわけで(ミッターは処刑の危機でしたが)、ラインハルトへの忠誠も、オーベルシュタインのそれとは質が違うのではないかと妄想しております。

オーベルシュタインにとっては、ラインハルトこそが自分を認めてくれる唯一の存在に近いわけで、だからこそ恐ろしいまでに新帝国のため、他の何を犠牲にしても、たとえ自分の命を犠牲にしても、その情熱を注いだのではないかと。

ところがその気持ちを素直に表現できないのが、彼の哀しいところ。理由不明の死という形で、その忠誠を貫いたのだと信じたいです。

おっしゃるとおり、ラインハルト死後のオーベルシュタインの居場所は存在しないでしょうし。

殉死であったとして、他の誰に理解されなくとも、唯一の主君であるラインハルトにだけは理解されて散ってほしかった。今回の話は、そういった願望から生まれました。

……すいません、熱くなっちゃいました(汗)

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