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2013年6月22日 (土)

命短し、恋せよ軍務尚書 (銀河英雄伝説 二次小説)

はい、今回は閣下のコイバナです。相変わらずpixiv同時掲載です。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2486739

オーベルシュタインに春が来た!……腐らせたくない、オリキャラを出したくない、既存キャラとの恋愛も想像できない。でもオーベルシュタインに恋愛させたい。そんな我儘な妄想が発展したお話。出てくるのは相変わらずオーベルシュタインとフェルナーなのですが……。

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命短し、恋せよ軍務尚書

 退庁支度をしながら、上官がため息を洩らした。アントン・フェルナーは自分も手早く机の書類を片付けながら、表面的には何ら変わらぬ顔をしている軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタインへと視線をやった。
「浮かないお顔ですが、何か懸念事項がおありですか」
この卓越した状況判断力と決断力を持ち合わせる上官が、ため息をつくほどに持て余すことなのかと、いささか事の重大さを考慮して真剣な顔で問う。
今日は珍しく、まだ世間の夕食時という時間での退庁である。どちらかといえば気分も良くなるであろうに、オーベルシュタインは眉間に数本の皺を寄せて、いつになく不機嫌そうであった。誤解されがちではあるが、この男は普段から仏頂面をしていても、決して不機嫌さを表に出す人間ではない。仮に表に出すとしても、それは威圧や牽制を目的とした、完全にコントロールされた感情表現であるのだ。それが今は、まるで「漏れ出してしまった」という様子で、不機嫌さと憂鬱さを表していたのだから、感度の良い部下のセンサーに引っかからないはずがなかった。
「大したことではない」
詮索は無用といった様子ではあるが、それでも「ない」とは言わない上官に、フェルナーは興味を覚えた。
「なるほど、閣下のプライベートにとっては『大したこと』のようですね」
勘の良すぎる部下に呆れて、オーベルシュタインは苦笑した。
「本質的には公私両面においても瑣末なことだ。ただ、どうしても切り離せぬしがらみというものは、厄介なものだと思っていただけのことだ」
上官の意外な言葉に、フェルナーは僅かに目を見開いた。必要があればすべてを切り捨てるであろうこの上官でも、切り離せぬしがらみがあるのだということに、驚かずにはいられなかったのだ。
「逃れられない付き合いというものが、閣下にもおありなのですね」
オーベルシュタインは静かに首肯した。
「親兄弟はおらぬが、まったくの天涯孤独というわけではないからな」
そう言って再びため息をつくと、その義眼を下方へ向けた。何やら考えている様子の上官をじっと眺めていると、その顔がさっと引き締まって、フェルナーを見つめた。話してしまった方が、幾分かは気が楽になるとでも思ったのであろうか。
「祖父の所有していた土地で、帝室の別荘用にとゴールデンバウム王朝へ差し出していたものがあったのだが、新帝国になった際に返還されたのだ。その相続に関して、従姉と話し合わねばならぬ」
別荘とは言え、かなりの敷地だからな、という一言が、心底面倒くさそうに付け加えられた。
「はあ。財産というものはなければ困りますが、あったらあったで苦労させられるものですね」
「まったくだ」
そう締めくくりながら、フェルナーはふと違和感を覚えた。そのような折衝なら、むしろオーベルシュタインの得意とするところであり、ここまで嫌がる理由もないのではないだろうか。しかも彼自身がその土地に執着している様子もないわけだから、いっそ面倒ならば、相続権を放棄して早々に話を切り上げることもできよう。これは何か別の理由があるぞと、フェルナーは意地の悪い好奇心がむくむくと湧いてくることに気付いた。
「従姉とおっしゃるからには、女性ですね」
溢れた好奇心を巧みに隠して、さも気遣うような口調で、フェルナーは質問の趣旨を変えた。
「そうだが」
そんなフェルナーの変貌に表面上気付いた様子もなく、オーベルシュタインは短く答えた。
「女性だから、会うのが嫌だということはありませんか?」
「……どういうことだ?」
怪訝そうに聞き返す上官に、フェルナーは隙のない笑顔を向けた。
「そのままの意味です。閣下は、女性と会うのが苦手なのでは?」
オーベルシュタインは少し考えてから、色の薄い唇を小さく動かした。
「それほど構えているつもりはないのだがな。幼い時分から付き合いのある従姉であるし、それほど気を遣うわけでもない。なぜこうも気が進まぬのか、自分でも分からぬのだ」
何度目かのため息をつく上官を横目で見やりながら、フェルナーはしばし思考を進めた。この上官は他人の考えや思惑を見抜くことに長けているが、そういう人物は得てして自身の分析が疎かになる。オーベルシュタインも例外ではなかった。おそらく彼自身も気づき得ぬ理由が存在するのだろう。フェルナーは幾種類かの想像をしながら、話を掘り下げることにした。
「その女性は、閣下のことをどう思っているのでしょうかね」
「どう、とは?」
「例えば、閣下を嫌っているとか、反対に好意を持っているとか」
フェルナーの例えに何か心当たりがあったのか、オーベルシュタインは思案顔で答えた。
「彼女の本音は分からぬが、以前、彼女は私の許嫁だった。無論、親同士の決めごとだったが」
オーベルシュタインの返答に、フェルナーはある仮説を思い当たった。隙のない笑みが、人の悪いしたたかな微笑に変わった。
「へぇ。では、その従姉の方は、閣下に想いを寄せているのかもしれませんね」
「それは困る」
強い口調で否定される。即座の反応に、フェルナーは自分の予想が的中したことを悟った。そうだ。上官は従姉が自分に好意を寄せていることを知っている。意識としてはどうだか分からないが、そう感じているのだろう。そして、その想いに応えられない理由があるのだ。
フェルナーは努めてゆっくりと、諭すように言った。
「そう、閣下は彼女の想いに気付きながら、迷惑していらっしゃる。なぜなら……」
一呼吸置いて、勿体ぶるように告げる。
「なぜなら、閣下には他に気になる女性(ひと)がいるからです」
何気なく机を弾いていた上官の指が、その動きを止めた。


 「なぜ、そう断言する」
常とたがわぬ冷たい調子で、オーベルシュタインは自信ありげな部下に問い質した。不遜な部下は少しも動じることなく、微笑を浮かべたまま回答を提出した。
「単純な心理分析ですよ。閣下には好きな女性がいる。だから、身内とは言え他の女性と会っていることに、変な誤解をされたくないと思っていらっしゃるんです。まして、かつての許嫁です。また縒りを戻すのではと、いい加減な噂を広める輩もいることでしょう」
オーベルシュタインは驚いたようにその半眼を見開いたあと、困惑したように目を伏せた。彼らしくないあからさまな感情の動きが、肯定を意味していた。
「図星ですか」
俯いたまま返答しないオーベルシュタインに、フェルナーはすっと緊張を緩めて言った。
「何も、根掘り葉掘り伺おうなどとは思っていませんよ、閣下」
無意識なのか、きゅうっと下唇を噛みしめて、冷徹非道といわれる軍務尚書は全身を硬直させている。まるで年頃の娘のような反応に、フェルナーは可笑しいやら心配やらで、小さくため息をついた。
「そうですか、閣下にも春が来たんですね。良いことじゃないですか。どうしてそんなに、暗い表情をなさるんです?」
意図的にあっけらかんと言って、フェルナーは上官の鞄をひょいと持ち上げた。オーベルシュタインは自分の鞄の行く末をぼうっと眺めながら、何事かを逡巡していた。
やがて、ぼそりと一言漏らす。
「私は、どうしたら良いのだろうか」
オーベルシュタインは机に両肘をついて、額を抱えるように顔を伏せてしまった。フェルナーは次の言葉を待ったが、一向に続く様子がなかった。「どうすれば良いのか」とは、今夜会う従姉のことではなく、好きな女性のことであろうと予想できる。しかし、具体的に何を相談したいのか、オーベルシュタイン自身にも分かっていないのだろう。フェルナーは妙に可愛らしい上官に内心でクスクスと笑った。
「閣下、前言撤回いたします。根掘り葉掘り伺いましょう。……その女性とは、お付き合いなさっているのですか」
オーベルシュタインは顔を上げた。その表情は、少しホッとしたように頬の筋肉を弛緩させていた。
「いや、そのような事実はない。私の……私の一方的な思慕だ」
気恥ずかしそうに目を逸らして、オーベルシュタインはそれでも正直に答えた。
帝国元帥が部下に恋愛相談。到底ふさわしくない状況であることは、オーベルシュタインにも分かっていた。しかし、プライベートで相談できる相手のいない彼としては、部下の中で最も信頼するフェルナーに話す以外に、自分の困惑を解消する手段がないのであった。そのあたりの事情でさえ、フェルナーは承知して話を促しているのだから、好奇心過多な面が、今回は功を奏していると言うべきであろう。
「片思いですか。振られたということでしょうか?」
言いにくいことをあっさり質問する部下は、しかし今は頼もしい。オーベルシュタインは首を振った。
「では、まさか告白さえしていないとか。……そもそも、話したことはあるんですか」
今度は小さく肯いた。
「何度か言葉を交わしたことはある」
そう言って少し間を置いてから、消え入りそうな声で説明を始めた。
「犬の散歩コースにある公園で、時折顔を合わせるのだ。彼女はダックスフントを連れていて、犬のことで少し話をすることがある。……それだけの関係だ」
再び目を伏せて寂しげな表情をする上官を見ていると、励ましてやりたいという気分になる。これも性分というものだろう。
「でも閣下。他にも大勢、公園を通る人間がいるのに、その女性は閣下と話をするんですよね。まったく脈なしとは言えないのではないですか」
そうだろうかと、オーベルシュタインは自信なげに呟いた。
「可憐で明るい女性だ。もしかすると、誰とでも言葉を交わしているのかもしれぬ」
そう言いながらその女性を思い浮かべてしまったのか、青白い頬にうっすらと朱が差した。上官のあまりにも純粋な反応が可愛らしく、フェルナーは込み上げる笑いを押さえるのに必死だった。
「そんなに自信がないなら、いっそ権力でご自分のものになさればよろしいでしょう」
無論これはフェルナーの軽口であった。自然体のまま自分を「笑い」という試練の場に連れ出した上官への、ささやかな復讐である。
「そのような非人道的なことができるか」
上官の顔はあくまで真剣で、フェルナーは耐え切れなくなって、ぷっと吹き出した。
「……閣下がそれを言いますか」
ひとしきり笑った後、真顔に戻って改めて思案を巡らす。
「それにしても、伝えてみる価値はありますよ。何しろ閣下ほどの方に想いを寄せられて、断る女性などいないでしょうから」
フェルナーの提案に、オーベルシュタインは激しく首を振った。
「それが嫌なのだ」
先ほどまで頼りなげに泳いでいた視線が、真っ直ぐにフェルナーを見据える。
「地位や財産を目的に付き合おうなどと思われるのは心外だ。私個人を見てほしいし、私に好意を持ってもらわねば意味がない」
日頃は他人からの評価など気にも留めない癖にと、フェルナーに皮肉られると、「好きな相手には好いてもらいたいと思うのが道理だろう」と恥ずかしげもなく答え、さらに部下を笑わせた。
「とはいえ、地位や財産もひっくるめて閣下という存在が成り立っているわけで、切り離して考えるのは容易ではありません。初めは帝国元帥という地位に惹かれたとしても、その後少しずつ互いに理解し合っていかれたらよろしいのではないですか」
そういうものかと、オーベルシュタインはゆっくりと肯いた。何しろ権謀術数から離れた探り合い、特に女心などには縁のない彼である。自分よりは遥かに経験豊富そうな部下の言に納得するしかなかった。
「そうと決まれば、まずはお茶にでも誘ってみてはいかがでしょう。犬を連れて入れる喫茶店なら、ブリーダーとしての付き合いの延長上で、すんなりと受け入れてもらえると思いますが」
そうだな、と言いかけて、オーベルシュタインはかぶりを振った。そもそも、そのような思い切ったことができるのならば、部下に笑われながらこんな話などしない。
「……にわかに首肯しかねる。地位財産を含めたとしても、彼女が私などの誘いに乗るだろうか。あれほど可憐で屈託なく笑う魅力的な女性(ひと)だ。もっと彼女に相応しい相手がいるのではないか。……私など、相手にされぬのではないか」
ああ、もう!フェルナーは感嘆とため息の中間のような声を出した。
そんな少女向け恋愛小説のような台詞を言われても、どうしろというのだ。
フェルナーはひとつ咳払いをした。
「それでは閣下。一生このまま、ただの顔なじみで過ごされるおつもりですか」
「……その関係が継続できるなら、それでも良いと思っている。時々顔を合わせて、わずかでも話ができるだけで、私は満足だ」
今時、15、16の女の子でも言わないような台詞である。無論、当人がそれで良いと言うのなら、フェルナーがどうこう言う問題ではない。しかしそれでは、恥を忍んで自分にこのような話をした意味がないではないか。ここまで聞いてしまった部下の身としては、何としてもオーベルシュタインに幸せを掴んでほしい。日頃から損な役回りばかりを引き受けている彼を見ているからこそ、余計にそう思わずにはいられなかった。
「それは矛盾していますよ、閣下。閣下はどうにかして今の状況を変えたくて、小官に話をされたのでしょう。人生には限りがあるのに、それも軍人の命は短いのに、想いを伝えないでどうするんです?」
部下の翡翠色の瞳が、いつになく揺れているように見えた。しかし、それでもオーベルシュタインは尚、返答に窮していた。
「閣下は、幸せにつながるかもしれない扉を、ご自分から閉ざしているんですよ。駄目で元々ではありませんか。このままではきっと、いつか死ぬ時に、ああ、せめて気持ちだけでも伝えれば良かったと、後悔なさいますよ」
沈黙の時が流れる。たった数秒が、数分にも数十分にも思われた。やがて、オーベルシュタインが意を決したように口を開いた。
「……分かった」
そう言うと微かに表情を歪めて、切なげな息を吐く。立ち上がり、鞄を受け取って出て行こうとする背中に、フェルナーは何ともいえず気遣わしげな視線を送った。


 それから一週間ほどは、何の音沙汰もなく互いに軍務に専念していた。フェルナーとしては、その後の展開が気にならないわけでもなかったが、オーベルシュタインにフェルナーへの報告義務などない。元々私的な会話を好む上官ではないだけに、問い質すことができずにいた。
一方のオーベルシュタインにしても、ただ漫然と時の経過を甘受していたわけではなかった。一旦は決意を固めたものの、フェルナーの言うようにお茶に誘って、もし断られてしまったら、鬱陶しい男だと思われてしまったら、二度と今のような関係には戻れないだろう。それでも良いのか。その危険を冒してでも、想いを告げたいのか。
そんな悶々とした日々を過ごし、週が明けた月曜日のことだった。フェルナーが出勤すると、軍務尚書は既に淡々と仕事を始めていた。慌てて、先週末に整理しておいた書類を上官のデスクに置く。
「おはようございます、閣下。今日はお早いですね」
フェルナーの敬礼に黙礼で応じると、オーベルシュタインは書類をめくる手を止めて、鞄の中をごそごそと探った。
「これなのだが」
オーベルシュタインの手にあるのは、薄いブルーの封筒であった。脈絡なく差し出された代物を、フェルナーは首をかしげながらも受け取る。
「中身を拝見しても?」
「ああ」
許可を得て封筒から出した物は、ピアノコンサートのチケットであった。2枚入っている。フェルナーはさらに首をかしげた。まさか、コンサートにフェルナーを誘おうというわけではあるまい。
「彼女がくれたのだ」
またしても脈絡のない上官の発言に、フェルナーは一瞬の間を置いて、オーベルシュタインが想いを寄せる、あの彼女のことだと思い当たった。
「本当ですか!?それって、コンサートに誘われたということですか」
興奮するフェルナーに対して、オーベルシュタインは静かに首を振った。
「そうではない。何でも、友人と観に行く予定だったのだが、その友人が行けなくなってしまったのだそうだ。もし、興味があれば使って下さいと言って、私にくれたのだ。……2枚とも」
これはどういうことだろうかと、オーベルシュタインはフェルナーに尋ねた。状況を聞くうちに、フェルナーも手放しでは喜べなくなった。
「そうですか……。それは何とも、判断しがたい話ですね。閣下に対してまったく恋愛感情がないから、2枚とも気軽にどうぞと渡したのだとも考えられます、が……」
「やはり、そうか」
フェルナーは、自分の言葉にあからさまに項垂れるオーベルシュタインを見て、慌てて付け加えた。
「最後まで聞いて下さい。ですが、本当は閣下と一緒に行きたくて、つまり閣下を誘いたくてチケットを用意したけれど、恥ずかしくて言い出せずに、閣下にそのチケットを2枚とも手渡したという可能性もあります。女心は複雑ですから」
ふむ、と、オーベルシュタインは小さく肯いた。しばらく考えてから、どちらの可能性の方が高いのだろうかと呟く。
「それは無論、後者ですよ。閣下に興味がないのなら、そもそもチケットなんてくれません。閣下と行きたいけれど言い出せないから、閣下に誘ってほしいんですよ!」
フェルナーは力説したが、正直なところ五分五分だろうと思う。何しろその時の状況を、彼自身が見ているわけではない。もし彼女の表情や仕草を見ることができたら、おそらくもう少し確実性の高い話ができたのだろうが。だがそれでも、オーベルシュタインにはアタックして欲しいと思うフェルナーである。
「女性にここまでさせて、それに応えないなんて男が廃りますよ」
「……そういう……ものだろうか?」
なおもうじうじと呟く上官に、何か決め手となるものがないかと、フェルナーは上質なデザインのチケットを眺めて考えた。
「そういえば、閣下はピアノがお好きですか」
質問の意図が分からず、オーベルシュタインは小首を傾げた。
「嫌いではないが」
「では、彼女とピアノの話をしたことは?」
「……なかったと思うが」
「そうですか……」
「それが何だというのだ」
黙り込んでしまったフェルナーに、オーベルシュタインは急かすように言った。フェルナーが戸惑いながら口を開く。
「いえ、ピアノコンサートは好みが分かれるでしょう。興味のない人間にとっては、どうしようもないほどつまらないものです。普通、初めて誘うのなら、映画の話題作とか、そういった当たり障りのないものにすると思ったのです。ですから、お二人がピアノの話でもなさったのかなと」
なるほどと、オーベルシュタインは肯いた。しかし、言われて再度思い返してみるが、そのような話をした覚えはない。
「しかし、映画でなくて良かったのだ。暗室での巨大なスクリーンからの強烈な光というものは、義眼の採光量の調整に不具合が生じるからな」
何気ない上官の言い訳を、フェルナーは聞き流そうとしてハッとした。
「それですよ、閣下!」
「……?」
状況を飲み込めていない上官に、フェルナーは確認するように畳みかける。
「その話を、彼女になさいませんでしたか」
オーベルシュタインは額に左手を当てて考え込んだ。
「……したかもしれぬ。ああ、確か曇りの日に。こういう天気は空が白く光り、ハレーションを起こしてしまうのだと言った時に、そんな話をしたような気がする」
フェルナーはしたり顔で笑った。
「ほらほら、もう決まりじゃないですか!これは、閣下のために用意されたチケットなんですよ」
絶対に誘ってあげて下さいねと、何度も念を押されて、冷徹なる義眼の持ち主は、その顔の赤みを強くした。

 その後、フェルナーは、無事コンサートへ出かけた上官から、土産と称して彼女と選んだのだという菓子折をもらったり、ツーショット写真を押し付けられたりする羽目となった。
ダルマチアンとダックスフントのカップルは、写真の中で楽しげにじゃれ合っている。彼らの飼い主たちが並んで写真に写るまでには、まだ少し時が必要であった。


(Ende)

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コメント

ゆいさん、こんばんは。

リラです。

閣下は恋愛がらみだと途端に乙女になりますよね。可笑しいを通り越して心配するフェルナーの気持ちがわかるような気がします。

おまけに今回は彼女をお茶に誘おうか、いや誘わない方がいいか、そもそも来てくれるのかなどなど、延々と悩み続けた挙句に、結局は彼女の方から誘われてしまったという展開で(苦笑)
あのコンサートチケットを彼女が渡したのは、いつまで経っても閣下がお茶にも誘ってくれないから、しびれを切らして自分から行動してみたとかだったら面白いです。
なんか聡明そうな女性ですし。
チケット渡して何もアクションおこしてこなかったら脈なし、みたいな。
だとしたら、コンサートに誘えとあれこれ並べ立てて力説したフェルナーさまさまですね!

まあ、少なくともいつも散歩のときに会うというのだから嫌われてはいませんよね、閣下。 嫌っていたり鬱陶しく思っていたのなら、散歩コースや時間を変えてしまえばいいわけで。 閣下の優秀な頭脳は、こういう方面に関しては機能を停止してしまうようで。そういうところ、恋愛に関してはトンチンカンな、上司ラインハルトに似ている気がします。

それにしても、閣下はダルマチアン拾ってよかったですよね。よれよれのダルマチアンが鶏肉のお礼(?)に、思わぬところから春を運んできてくれたみたいで(笑)

リラさん、こんばんは。

閣下は乙女になりますね~。むしろ、乙女すぎますよね(汗)
フェルナー何でも相談室みたいになりそうです。

友人に、これと対をなした、彼女側のサイドストーリーを書いて、オベの散歩中のウジウジっぷりを書いても面白いんじゃないかと言われて、ちょっと心が揺らいでいます。その中で、もしかしたら彼女の行動の理由が明かされるかもしれません(未定ですが)。

> 嫌っていたり鬱陶しく思っていたのなら、散歩コースや時間を変えてしまえばいいわけで。
そうですね!閣下も変なところが鈍いですよね。……・すいません、それ、私もそこまで考えてませんでした(恥)

鶴の恩返しならぬ、犬の恩返し!閣下って、犬を飼ったことや、フェルナーを部下にしたことで、たぶん、人生観が少し変わったのではないかと思います。

コメントありがとうございましたm(__)m

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