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2013年7月20日 (土)

光さす部屋 (銀河英雄伝説 二次小説)

立て続けにツイッターネタで恐縮ですが、「ラーベナルトと幼いオーベルシュタインのほのぼの」という話で盛り上がった時に、一過性の熱に浮かされて書いたものです。
クオリティとかそういうのは……orz

【注意】直接的な暴力表現はありませんが、被虐体験のある方は慎重にお読み下さい。

一応pixiv同時掲載です。読みやすい方でどうぞ。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2592219

Line4_3

光さす部屋


 ラーベナルトは幼い主人の肘にできた傷に、消毒液を垂らした。
「……っ」
少年が息を飲むのが分かる。それでも健気に噛んだ唇が、青白く血の気を失っていた。
「ねぇ、ラーベナルト」
手当てを終えた腕を反対の手でさすりながら、少年は時に優しく時に厳しい使用人の顔を見上げた。
「何ですか、パウルさま」
応急セットを片付けたラーベナルトは、柔和な笑みを浮かべて腰を落とすと、物言いたげな幼い主人と視線を合わせた。幼い……まだ6歳になったばかりのパウルは、その薄茶色の両目を潤ませていた。無機物であるはずのこの瞳が、どれだけこの子どもの内面を映しているか、知っているのはおそらくラーベナルトだけであろう。少年の実父は、生まれながらに盲目だった彼を激しく嫌悪し、実母は彼の瞳に自身の罪を見て目を逸らすばかりだった。
「父上のお怒りは、どうしたら冷めるのだろう?ぼくが悪いのは分かっているけれど、でも、ぼくは……」
パウルが全てを言い終える前に、ラーベナルトは小さな頭を胸に抱いてやった。柔らかな髪を撫でているうちに、少年は嗚咽を漏らし始めた。10歳にも満たぬパウルの頭には、既に白いものが目立っている。病気がちな体質ゆえか、健全な成長のための肥料が、まともに与えられぬゆえなのか、ラーベナルトには判然としなかった。
遺伝子が悪い、生まれが悪い。生まれながらに罪を背負っていると、実の父親に罵られ、容赦なく殴りつけられる少年の傷を、果たして自分は、どのような方法で癒せるというのだろうか。形ばかりは豪奢で文句のつけようもないこの部屋を与えられて、蔑まれて育つこの少年に、自分は何を与えられるだろうか。
大人しく抱かれていたパウルが、もぞもぞと動き出して頭を上げた。流した滴の痕がその青白い頬を赤くしていたが、表情はもう、普段の穏やかなそれに戻っていた。
「ごめんなさい。またラーベナルトを困らせた」
何かを達観したかのような静謐な笑顔を、パウルはラーベナルトへ向けた。
笑えるはずがないと、ラーベナルトは思う。殴られてできた傷の痛みも、抉られるような心の痛みも癒えてはいないのに、このような優しい笑顔を作れるはずなどない。子どもは驚くほど周囲に気を配り、均衡を保つよう努力するものなのだと、パウルの世話を始めて気付かされた。どのような状況下でもこの少年は、大人たちを安心させる術を持っていた。
「パウルさまが謝ることではありませんよ。それと、嘘をついてはなりません」
どこか悲しげな口調で、ラーベナルトはそう言った。
「嘘?」
執事の言葉の意図が理解できず、パウルはただ真っ直ぐに相手の目を見つめた。ラーベナルトはそっとパウルの肩に手をやると、噛んで含めるように言葉をつなげた。
「そうですよ、パウルさま。泣きたい時に笑うのは、ご自分の心に嘘をついていることになります。お分かりになりますか?泣きたい時には泣いて、笑いたい時には笑いなさい。ご自分の気持ちに正直になるのですよ。パウルさまがどんなに泣いても、わたくしは怒らないでしょう?」
パウルはこくりと肯いたが、未だ何かを躊躇っているようだった。ラーベナルトは目を細めて笑うと、そっと言い添えた。
「よくお耐えになりました。痛かったですね」
執事のその言葉に弾かれたように顔を上げ、パウルは細い腕をラーベナルトへと伸ばした。自分の全てを包み込んでくれるような温かい執事の胸に、ぎゅうっとしがみついて目を閉じる。
もう、泣きたいという気持ちはなかった。泣き腫らすよりも効果的なラーベナルトの言葉に、少年の中のわだかまりは溶けていったようだった。
しばらく屈んだままパウルの体を支えていたラーベナルトは、やがてそのまま軽々と少年を抱き上げた。早くも先の展開を予測した少年が、嬉しそうに目を輝かせる。
「さて、今日は何を観ましょうか」
優しく囁く執事の顔を右手で弄びながら、パウルは少し考えるように視線を泳がせた。5秒ほど沈黙した後、
「犬のディスクにしようよ、ラーベナルト」
と、屈託のない笑みを浮かべる。子どもの笑顔は天使のようだと、誰が言い出したのかは知らないが、良く言ったものだ。ラーベナルトは悪戯っぽく笑うと、少年の色鮮やかな義眼を見つめて言った。
「そういたしましょう。実は、こっそり新しいディスクを仕入れてございます。今度はダルマチアンという犬のお話ですよ」
歓声を上げる少年を胸に抱いたまま、ラーベナルトは光ディスクを取り出した。
オーベルシュタイン家の昼下がりの団欒は、始まったばかりであった。

O0012_3
(友人の月海月さん画「在りし日の風景」です。達観したかのような嘘笑いのパウルくん。挿絵用にお願いしたら、快く即日仕上げてくれました。この場を借りて感謝申し上げます)


(Ende)

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