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2013年10月 7日 (月)

同期のバゲット (銀河英雄伝説 二次小説)

結構前から書き始めていたのですが、挫折を繰り返していた、オーベルシュタインとケスラーの同期トーク。二人が絡んでいるところを原作では見たことがありませんが、ラングがオーベルシュタインに責任転嫁した時など、ケスラーはそのくだりだけ黙殺しましたよね。表立って衝突していた様子もなかったので、仲良く(?)話をしてもらいました。

いつも通りpixiv同時掲載です。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2910341

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同期のバゲット


 部下が休暇中であったことも、そのきっかけのひとつになったのだろう。
パウル・フォン・オーベルシュタインは、遅く取った昼休みに昼食を買いに出かけた帰り、パン屋の袋を片手に川べりの土手を歩いていた。新帝国暦1年8月の末。月の半ばまで続いた猛暑が嘘のように、この日の風は爽やかに澄んでいた。足元の芝は今が盛りと青々煌めき、風になびいて輝きを変える様は、思わず手を伸ばして触れてみたい衝動を呼び起こした。
「まだ時間はあるか」
オーベルシュタインは懐中時計で残った休みの時間を勘定すると、芝生の上へおもむろに腰を下ろした。手にしていた紙袋を脇へ置いて、中から野菜サンドを取り出す。緑の香りと焼き立てパンの香りを鼻腔いっぱいに吸いこんで、サンドイッチをひと口含んだ。

この日オーベルシュタインは、正規の休憩時間に昼食を食べ損ねてしまった。いつも気を利かせて軽食を準備してくれる部下もあいにく不在であり、どうしたものかと考えあぐねていると、書類を受け取りに来た秘書官のシュルツが、近くに新しくできたパン屋の情報を残して行った。従卒にでも行かせてはいかがですかとのシュルツの提案にも関わらず、オーベルシュタインは自らこうして足を運んだ。それなりの理由はあったが、軍務省を出て外の空気を吸い、気分を変えたくなったのが最大の要因であっただろう。
ともあれ、さして大きくもないサンドイッチをあっという間に頬張ってしまうと、オーベルシュタインは紙袋を置いたまま、ごろりと芝生に寝転がった。冷徹非道な軍務尚書らしからぬ姿であったが、トレードマークである灰色のケープは執務室に置いてきてあるから、傍から見れば彼の地位など分かるまい。分かったところで咎め立てられることもないだろう。とりとめもなくそんなことを考えながら、青空に浮かぶ入道雲を眺めた。
「すべてを忘れてしまえそうだな」
ゆっくりと流れる雲は彼の波立った心を穏やかにし、爽やかな青空は湿った胸に心地よい風を送り込んだ。5分もそうしていると、澄んだ空だけが映った視界の中に、ふいに影ができた。
「軍務尚書殿」
自分と同じ若白髪を持つその影は、薄っすらと笑みながら自分を見下ろしている。
「ケスラー上級大将か」
半眼を眩しげに僚友の方へ向けると、名を呼ばれたウルリッヒ・ケスラーは軽く頭を下げて口を開いた。
「オーベルシュタイン元帥……」
「かしこまらずとも良い」
何かを言いかける僚友へ咎めるように、しかし柔らかな口調でオーベルシュタインが機先を制した。途端に、名うての憲兵総監の相好が崩れる。
「卿のそんな姿を見るのは、士官学校の野営訓練以来だな」
そうだったかと答えながら、パンの入った紙袋を持ち上げて僚友のスペースを作ってやる。ケスラーは同年の上官に倣って隣に腰を下ろすと、寝そべったままのオーベルシュタインへちらりと目をやって、河原の方へと視線を移した。
「何を見ていたんだ?」
凍てつくような作りものの瞳を寸分も動かさない同輩は、どこかその冷たさの中に普段と違うものを含んでいるように見える。もっとも、こうして土手の上で寝そべっている時点で、およそ日頃の軍務尚書とはかけ離れているのであるが。
「ほう、なぜ『見ていた』と思ったのだ」
ぐるりと首を回してケスラーの方へ顔を向け、オーベルシュタインが興味深げに問う。その仕草がやはり彼らしくないように思えて、ケスラーは僅かに眉を寄せながら答えた。
「さて、なんとなくな。卿が一点を見つめているような気がしたからだ」
その言葉にオーベルシュタインは明らかに片眉を上げたが、音声には出さず再び空を見上げると、大儀そうに大きく息を吸い込んだ。河原の方からひんやりとした風が吹き上げてくる。オーベルシュタインは軽く身震いしてから体を起して、ケスラーと同じ川の流れに目をやった。
「俺が尋ねるべきことではないかもしれんが、何かあったのか」
憲兵総監の控えめな問いにも、オーベルシュタインは視線を動かさず、滔々とした水の流れを漠然と眺めているようだった。
「……言わぬ、か」
フッと息を吐く僚友に、無表情のまま小さく、「必要あるまい」とだけ答える。
「卿は昔からそうだ。必要か、必要でないか。意味があるのか、ないのか。二極化して物事を考えすぎるのが卿の悪い癖だと、俺は常々思っていた」
ケスラーが感慨深げに呟くと、ようやくオーベルシュタインはかつての同期へと視線を投げかけた。その目は当然のことながら何の感情も湛えず、頬と口周辺の最低限の筋肉のみが嫌々ながら動く。
「必要かそうでないかは、判断材料として重要な問題であろう。私は余計な話で自分と相手の時間を無為に浪費しようと思わぬだけだ。卿とて、部下に不要な仕事をさせはすまい」
身も蓋もない正論を凍った唇から吐き出すのは、やはりドライアイスの剣と渾名される軍務尚書その人である。だがケスラーはかぶりを振った。
「確かに卿の言いようは正しい。だが、時に必要でないことをすることが必要になることもある。そう言いたいだけだ」
同輩の言葉に、オーベルシュタインは眉根を寄せた。
「異なことを言う。それは結局のところ、必要なことなのであろう。そのような持って回った言い回しをする意図が私には掴めぬ」
その反応は如何にもオーベルシュタインらしくて、ケスラーは思わず苦笑した。
「ああ、そうだろうな。卿には分からぬかもしれん。だが、そうだな。卿はなぜこんなところで空を見上げていたのだ?俺には皆目見当もつかんが、卿自身も論理的説明はできぬだろう」
ああ、と、小さく肯く声がある。
「だが、卿にはそれが必要だったから、ここにいたのだろう。そういうことだ。それと同様に、卿には不要と思われる質問も、俺にとっては意味があったということだ。どうだ、理解できたか?」
ふんと、肯定とも嘲弄とも取れる相槌だけが返り、ケスラーは肩をすくめて息を吐いた。
「せっかくの青空だ。そのような理屈を捏ねて時を費やすのは、勿体ないというものだ」
オーベルシュタインがそう言って背伸びをしたので、ケスラーは思わずくすりと笑った。
「卿らしくない言いようだ。そもそも余計な理屈を捏ね出したのは卿の方だろう」
「……極端なのが私の悪い癖なのであろう?」
冷たい真顔でそう言い放つ同輩を見やり、ケスラーはまた笑みをこぼした。その真面目で揚げ足取りの台詞が、彼なりの冗談なのだと理解していたからである。
「しばらく顔を合わせることもなくなるな」
吹き抜ける風に冷たい湿気が含まれてきたような気がして、ケスラーは雲行きを眺めた。遠く西の空に黒雲が漂っている。
「そうだな」
オーベルシュタインは関心なげに応じてから、パンの紙袋を手に取り、中から小さめのバゲットを取り出した。左手でバゲットを握ったまま、右手で紙袋を同輩へ投げる。ふいに飛んできた袋を容易く受け取ったケスラーは、袋の中身を確認して首をかしげた。
「卿の昼食ではないのか」
中にはオーベルシュタインが手に持っている物と同じバゲットがひとつ入っていた。
「私はもう十分だ。胃袋に余裕があるようなら卿が処分してくれ」
無味乾燥な顔と声で、オーベルシュタインが答える。しかしながら、作りものの瞳がいつもより真っ直ぐとこちらを見ているような気がした。
「珍しいじゃないか。どういった心境の変化なのか伺いたいものだ」
からかうように問うと、たった今までこちらへ向けられていた碧い瞳が揺れて、ちらりと逸らされる。不思議なことに、人工物であるその目も、巧みに持ち主の感情を表すようだ。
「……たまたま気が向いただけのことだ。大した意味はない」
背けられた横顔が、微かに下を向く。半白の前髪が風に遊ばれてふわふわと靡き、細い右手が鬱陶しそうに掻き上げた。
それからは何も語らず、二人で並んだままバゲットを胃の中へ納めた。西にあった雨雲が、徐々に二人の頭上へと差し掛かってくる。ケスラーは立ち上がると、オーベルシュタインへ敬礼を向けた。
「貴重な休みに邪魔をしたな。……息災でいろよ」
柔和な笑顔を浮かべ、右手を差し出す。まもなくオーベルシュタインは、大本営の移転によってフェザーンへ赴くことが決まっている。一方のケスラーは帝都防衛司令官としてオーディンに残留となり、彼らが顔を合わせるのは当分先のこととなるに違いなかった。
「ああ。卿も」
差し出された僚友の手に自分の右手を重ねて握ると、オーベルシュタインは口角をほんの少し上げて両目を細めた。そう遠くない将来、新銀河帝国の帝都はオーディンではなくなり、憲兵総監もフェザーンへ移ることになるだろう。皇帝(カイザー)の意図を内々に聞き知っているオーベルシュタインは、思わずそう付け加えたい衝動に駆られたが、辛うじて色の薄い唇の奥へ隠すことに成功した。
手を離すと、頼もしい僚友へ一礼して踵を返す。
「待てよ。どうせ軍務省に戻るのだろう。缶コーヒーの一杯くらい、礼に奢らせろよ」
マントのない元帥服の後ろ姿へそう呼びかけたが、かつての同期生は足を止めることなく右手を軽く振ってみせただけで、ケスラーからその表情を伺うことはできなかった。
「礼を言いたいのはこちらの方だ」
出口のない堂々巡りの思考に悩まされていた自分が、僚友との何気ない会話で、青空を一人眺めるよりも爽快な気分になった。だから、礼を言うとしたら自分の方なのだと思う。
後ろを歩く僚友の足音を聞きながらオーベルシュタインはそう独りごちると、戻ってから着手せねばならない職務を勘定しつつ、徐々にその意識を平常に戻して行った。

頭上に広がる雨雲が、帰りを急ぐ二名の軍人の肩に、ぽつりぽつりと鼠色の雨を落とし始めていた。


(Ende)

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コメント

ゆいさん、こんばんは~。

そういえばケスラーって、ラインハルト陣営でただ一人閣下の学生時代を知っている貴重な存在なんですよね。うらやましい…

どんな士官学校時代だったのかすごく気になりますが、ケスラーは閣下の悪口言わない代わりに、学校時代のこともしゃべってくれないんですよね。

同僚たちから毛虫のごとく嫌われ、死神扱いされるかつての同期をいったいどう思っているのやら。

ゆいさんのお話では、ふつうに仲良さそうで安心しました。二人で哲学やっているかと思いきや、実は単なる揚げ足取り合戦という。
閣下もこういうやり取りだといい息抜きになりますよね。某セレブ提督との陰険対決ではストレスがたまる一方でしょうし。

このケスラーとのやり取りをフェルナーあたりが聞いたら、すごくくやしがりそうです。「俺の役どころをとられた~」って感じで。

そして、シュルツくんは何気にさらっと意味ありげな行動しますよね。今回も、「従卒に~」とか言いながら、閣下が自分で散歩に行っちゃうのをみこしてたかのような。
伊達に閣下やフェルナーと付き合ってないですね。

そう、ケスラーは学生服姿のオーベルシュタインを知っているんですよ(にやにや)。

仲が良いとまではいかないかもしれませんが、少なくとも昔の同期生を心配する程度の度量を、ケスラーは持っているのだと思います。嫌われ者であっても、公正中立なケスラーらしいかなと。

一方の閣下は素直になれないので、冗談も揚げ足取りになってしまうんですが、そのあたりも「昔と変わらないな」と、ケスラーに苦笑されていれば幸せです(私が)。

フェルナーは悔しがりそうですね(笑)
そもそも「俺がいたら、閣下が外で気分転換しなくちゃいけないような事態にはしない!」とか自負していそうです。昼食も先回りして準備しているでしょうしね。

シュルツくんはできる子です!(笑)

ご感想ありがとうございましたm(__)m

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