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2014年1月29日 (水)

白い棺掛け (銀河英雄伝説 二次小説)

今回は、即興二次小説というサイトでお題をいただいたので、挑戦してみました。お題は「寒い弔い」です。絶対に「寒い」の意味が違うんだろうなとは思いつつ……。
いつもどおりpixivと暁にも同時掲載です。

Line4


白い棺掛け


 ヘルムート・レンネンカンプ上級大将の密葬は、新帝国暦1年11月に執り行われた。生前の階位に比すればいささか簡素で寂しい葬儀であったが、彼がヤン・ウェンリーを不当に拘禁したことに端を発する自死であったことから、部下たちでさえ公然と不平を言うものはなかった。無論、故人にも非のあったことであろうが、勇猛果敢な将帥たちが一様に口を閉ざす姿に、軍務省官房長アントン・フェルナー少将は故人への同情を感じていた。
「お疲れ様でした」
小雪の降る中行われた式を取り仕切ったのは、上官であるパウル・フォン・オーベルシュタイン元帥であった。参列者の姿が完全に消えたところで、オーベルシュタインは遺体の入ったガラス製の棺の前に立っていた。
「ご苦労だった」
手足となって細々と動いてくれた部下を、作り物の目で一瞥してから、軍務尚書はガラスケースの中を覗き込んだ。
「どうなさいました、閣下?」
既に十分検分されたはずであるが、遺体に何か不審な点でもあったのかと、フェルナーは緊張の面持ちで上官へ尋ねた。今は目を閉じている遺体だが、検死の際には縊死に見られる眼球結膜の溢血点が確認され、首に残る索状痕にも矛盾がないことから、遺体に添えられていた記述の通りの自死であろうと判断されている。オーベルシュタインは十秒ほど遺体の顔を眺めてから、振り返ることなく口を開いた。
「このような形で葬られることになろうとは、レンネンカンプもさぞ無念であっただろうと、な」
単調で抑揚のない声が、ひどく感傷的な台詞を吐いたことに、フェルナーが目を見開いて上官の横顔を見る。
「はぁ、決して本望ではありますまい」
意図の読めないフェルナーが、当たり障りのない言葉を返した。
フェルナーは知っている。レンネンカンプにヤンの拘禁をそそのかし、失敗すれば切り捨てるがごとき発言をしたのは、目の前にいる上官自身であった。明哲な上官のことであるから、このような結果もいくつかの可能性のうちのひとつとして、疾うに予想していたに違いないのだ。であるにもかかわらず、なぜ今になってこのような発言をするのか、正直なところフェルナーはそれらしい解答を持ち合わせていなかった。
部下の困惑を察したのか、オーベルシュタインがちらりとフェルナーの表情を見やる。
「レンネンカンプは生きていても元帥にはなれぬ男だった。その考えは今でも変わらぬ。だが、皇帝(カイザー)もおっしゃっていたが、このような死に方を強要されるほど無能な男でもなかったと、私も思っている」
考えが硬直しがちで融通の利かない面はあったが、部下には公正で堅実な仕事をする人物であった。実戦でもこの戦乱の世に上級大将にまで登りつめた提督である。無能であればとっくの昔に宇宙の塵に帰していたであろう年齢だった。フェルナーは得心したように肯いた。
「御意と思いますが、閣下にはいささかの後悔がおありですか」
レンネンカンプを見捨てるような行動、発言をしたことについてであることは、説明がなくとも分かりきっていた。少なくとも二人の間では余計な説明の必要はなかった。
オーベルシュタインは部下の質問を正しく理解すると、小さくかぶりを振った。
「いずこかに潜むメルカッツ一党とヤン・ウェンリーを処分するのに、あれ以上効率的な手段は、少なくともあの時点では考えつかなかった。ゆえに、最善の努力をしたと信じている。こうなる可能性も考慮に入れていたが、それでも尚、実行するだけの価値があると考えていたし、それ自体が間違いだったとは思えぬ」
揺るがぬ表情で、オーベルシュタインは尚も遺体を見つめたまま淡々と述べた。
おそらく、上官の言葉は偽りではあるまい。どのような最悪の結果になろうとも、その時点でできうる最善の選択をしたのだと、彼は言ってのけるだろう。だがそれでも、数ある可能性のうち最も悲惨な結果に終わったことに、運命の無情さを感じるのだろうか。
オーベルシュタインがガラス棺の足元の方へ体を寄せて、滑らかな素材でできた白い棺掛けを引き寄せた。黄金獅子(ゴールデン・ルーヴェ)の紋章が縫い込まれたその布を、丁寧に棺の上へと掛ける。胸元まで掛けてやり、顔だけが見えるようにしてから、可聴域ぎりぎりの声でぼそりと呟いた。
「私を恨むがよい、それで気が済むならな」
内容に反してひどく穏やかで優しく置かれたその言葉の意味を、フェルナーはやはり解することができなかった。オーベルシュタインは今度こそ棺掛けを最後まで掛けると、用意してあった樒(しきみ)の花を置き、その後は二度と振り返らずに葬儀委員長として残った職務へ取り掛かった。
外の小雪が、日暮れと共に本格的に降り出していた。

 後日、元帥への昇進を果たせなかったレンネンカンプの遺族の元に、『元帥としての』遺族年金が支給される旨の知らせと、相応の供花が届いた。首席秘書官からその報告を受けた皇帝ラインハルトが、更にその1時間後、それらの手配の指示を出したのが軍務尚書オーベルシュタインの元帥であったことを知り、意外そうな顔で笑ったという。


(Ende)

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