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2015年5月 5日 (火)

人生最良の日(銀河英雄伝説二次 ワンライ用)

「断る」
「そんなけんもほろろにおっしゃらなくても」
「却下だ」
「仕事外のことで閣下のご命令に従う理由はございませんので」
「嫌だ!」
軍務省のトップ2が、朝から何やら剣呑な雰囲気を作っていた。その当事者の一人であるアントン・フェルナー少将が、呆れたように溜息を吐く。
「嫌はないでしょう、子どもじゃあるまいし」
「……。」
新帝国暦2年5月5日。軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は大量の書類と口煩い部下に挟まれて、諦めの悪い駄々をこねていた。むろん、この書類の処理について異議を申し立てているわけではない。仕事が多いことについては今に始まった事ではないし、今日が特別に膨大というわけでもなかった。むしろ、目の前の書類を半日で片付けよと言われた方が、どれだけ気楽で嬉しかったことだろう。
「閣下」
フェルナーの呼びかけも虚しく、オーベルシュタインは仏頂面で書類を睨んだままだった。そのまま顔を上げる様子もなく、どうやら無視を決め込んだようだ。フェルナーは仕方なしに、手元にあったファイルでオーベルシュタインの書類に蓋をしてしまった。
「……。」
黙って払いのけようとする上官に、片腕だけで抵抗する。元より腕力に関してはフェルナーの方が勝っていた。完全に仕事を放棄させられて、オーベルシュタインは不服げに部下を見上げた。
「上官侮辱罪で訴えられたいのか。良くて減俸、降格だが」
日頃感情を宿さぬ作りものの目が、いっぱいに見開かれてフェルナーを射抜く。いつになく強張った表情もまるで幼子のようで、フェルナーは湧き上がる笑みを隠すのに少なからぬ努力を強いられた。
「嫌だからと言って逃れられるものでもありますまい。閣下の御為を思ってこそ申し上げているのです」
ことさらゆっくりとした口調で、噛んで含めるように言うと、オーベルシュタインは隠されてしまった書類のあたりに視線を彷徨わせた。
「まだ病み上がりであるから……」
爆弾テロで負った傷を理由に断ろうとする上官へ、しかし軍務省の要とも言われる部下は一歩も譲らない。
「病み上がりだからこそ、大切な時期なのです。いい加減、お諦めください」
上官は半白の髪を揺らしてかぶりを振った。
「痛い」
フェルナーが幾度目かの吐息を漏らす。
「先日の負傷に比べればかすり傷程度です。第一、閣下は平気で御身を囮になさろうとするではありませんか」
下ばかりに向けられていた冷たい義眼が、部下の双眼を正面から捉えた。
「それとこれとは話が違うであろう。受傷の瞬間に意識も失う戦場での負傷とは性質が異なる。近づいてくるのが見えるし、心拍数の増加も顕著になり、そのせいか出血も多い。注射は痛いのだ。それに……」
なぜよりによって自分の誕生日に、という言葉をオーベルシュタインは飲み込んだ。今日は年に一度の一斉予防注射である。いかに軍務尚書とはいえ、私的な都合でその日程を狂わせて良い道理はなく、そもそも誕生日でなくても嫌なものは嫌だ。さほど頑健な性質ではないものの、長く軍にいるだけあって大抵のことは耐えられるし、忍耐心はある方だと自負している。しかし注射だけは、度々病臥した幼少期の、自身ではどうすることもできない苦しみや悔しさを思い出し、吐き気がこみ上げてくるのだ。
まったく、人生最悪の日だ。
オーベルシュタインが珍しく言葉を詰まらせている間に、フェルナーは上官の複雑な心理を理解して、翡翠の両目を光らせた。
「大切なお身体なのです。どうか我慢なさってください。無事に注射が済みましたら、小官が人生最良の日にしてさしあげましょう」
頑張れますかと問われて、オーベルシュタインは渋々肯いた。病に倒れるのも、治療を受けるのも、回復が遅いのも、すべて惰弱に生まれた故。己が命を否定され、顧みられることのなかった少年期。努力をしても、両親の望む結果を出しても、自分であることは許されなかった。冷たく情のない、ただ支配者に服従するだけの仮面をかぶらぬ限り、生きてはいけなかった。
チクリと左腕に痛みが走った。嘔気を堪えて目を瞑ったが、衝撃で義眼が点滅するのではないかと思った。
やはり注射は、私にとって死刑宣告のようなものだ。


眼前にオーベルシュタインの好むウイスキーが差し出された。路地裏にある小さなバーの隅に、彼の居場所が作られている。
「お疲れ様でした、閣下」
満面の笑みでグラスを差し出したのは、口煩い銀髪の部下である。横には秘書官シュルツ、事務長グスマンと護衛隊長ヴェストファルだった。
「これはどういった趣向か」
浮かべられる笑みに違和感を覚える。親愛の笑み、労いの言葉。
「どうって、閣下のお誕生日祝いですよ」
「おめでとうございます、閣下」
「おい、乾杯だ乾杯!」
楽しげにビールを注ぐ部下たちが、代わる代わる笑みを向けてくる。
「私を祝うのか?」
思わず口をついて出た言葉に、一同が動きを止めた。しまった。やはり自分を本心で祝うような人間などいるばずがないのだ。
唇をかすかに震わせると、破裂するような笑声に全てを掻き消された。
「何をおっしゃるんですか、閣下」
「閣下をお祝いせずに誰を祝うんですか」
あっけらかんと言われて目を見開く。
「そうですよ、今更面白いことをおっしゃいますね、閣下」
怖いほどニコニコと笑って、銀髪の部下がグラスを寄せてくる。
「人生最良の日にしてさしあげると、申し上げましたから」
胡散臭い笑みは自分の色眼鏡だったのか。完全に信用できはしないが、この部下たちは信頼しても良い気がした。
「だから、ほら、行きますよ」
「ああ」
「Prosit!」
彼らの思考が理解できない。気のせいかクラクラする。
ああ、とんだ人生最良の日だ。けれど、なぜか幸福な気分だ。

(ende)

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コメント

こちらでは初めまして。
銀英ワンライから飛んでまいりました。
予防接種から逃げようとする閣下が可愛くてかわいくて笑いが止まりませんでした。
あのまま終わっていれば人生最悪の日ですが、部下達にお祝いされたんだから
人生最良の日ですよね。

にょ百合さんようこそ~(*´∀`*)
まさかの予防接種怖い閣下です。
そんなはずないですけどごめんなさい、ネタが思いつかなくてw
そしてオフ会真っ最中でしゃべりながら書いたので、読み返したくないほどです;;
いつもにょ百合さんの作品拝読しております。そして感想いただけてうれしいです!!ありがとうございます。・゚・(ノД`)・゚・。

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